日中の産業・経済力を比較し、中国の世界制覇の野望を分析した2誌
◆良好とは言えぬ関係
今年は日中平和友好条約締結から40周年を迎える。この条約は1972年の日中共同声明を踏まえてのものだったが、締結までに6年の歳月を要している。一方、締結後40年で日中両国の様相は一変している。何よりも中国の経済力の躍進ぶりである。2010年に中国は国内総生産(GDP)で日本を抜き世界第2位にのし上がった。以後、驚異的なスピードで経済発展に邁進する。それに併行して、日中間では尖閣諸島の領有権をめぐって軋轢(あつれき)が生じ、米中間では深刻な貿易戦争が勃発するなど経済的に不穏な状況が生まれている。通常、平和条約締結後は締約国同士の関係は良好な関係が構築されると思われがちだが、日中関係においては現在、緊密な関係が続いているとは言い難い。その一つが国民感情である。米ピュー・リサーチセンターの調査(2015年)によれば、日本に好感を持つ中国人の割合は12%。他方、中国に好感を持つ日本人の割合は9%にすぎない。
そこで、この40年間の日中両国の産業力を経済誌が比較した。東洋経済(9月15日号)は「中国VS日本 50番勝負 企業の実力徹底比較」と題し、先進技術分野での中国の躍進ぶりと日本企業の対応・生き残り戦略を描いた。また、ダイヤモンド(9月1日号)は、「自動車・電機・IT 40年で完成した日中逆転の全経緯」と銘打ち、世界覇権を狙う中国の野望を分析する。
◆贖罪意識で技術流出
1978年12月、文化大革命の混乱を経て権力の座に就いた鄧小平・中国共産党中央委員会総書記は「改革開放」路線にかじを切り、市場経済化を宣言。以後、社会主義体制を堅持しながら、西側資本や技術を導入して産業の高度化を図った。この時、鄧氏が言い放った「白い猫だろうが黒い猫だろうが、ネズミをとる猫がいい猫だ」という言葉が有名になったが、それは決して社会主義を捨て去りはしない、ということであった。
また、同氏が「開放改革」を掲げる2カ月前に来日した際、新日鉄や松下電器、日産自動車など日本の先端企業を視察している。当時の状況について、ダイヤモンドは次のように綴(つづ)る。「新日鉄にせよ、松下電器にせよ、時の経営者は中国への技術を移植することに関して決して出し惜しみしなかった。…。彼ら(日本企業経営者)にもう一つ共通していたのは戦争への贖罪(しょくざい)意識だ。日本が中国にもたらした惨禍に自責の念を持つ経営者は少なくなかった」。すなわち、日本の政治家や企業経営者らは中国の思惑や長期戦略を何ら検証することなしに湯水のように先端技術を流出していったのである。
一方、中国は外資を導入するものの、「外資メーカーに対しては合弁会社の出資上限は50%」「合弁会社の設立は外資1社につき、中国企業2社まで」というルールを課すことで、中国で儲(もう)けたカネを国外に出さない仕組みを作った。それでも日本企業をはじめとする外資は中国の安い労働力と広範な市場に魅せられて進出していった。
この結果、中国は短期間の中で先進国の技術をキャッチアップできたのである。
◆中国の“術中”に陥る
東洋経済は各分野の優劣を検証しているが、その中でディスプレーについては、「2017年、中国BOE社はテレビ向け大型液晶パネルの出荷台数でシェア2割の韓国LGを抜いて初めて首位に躍り出た。スマートフォン向けの中・小パネルでも3位、現在は有機ELの量産拡大を急ぐ」と躍進ぶりを指摘、さらに人工知能(AI)でも半導体でも日本ばかりか韓国、欧米をしのぐ勢いで製造開発が進んでいると説明する。中国の先進技術のキャッチアップは半導体やAIだけではなかった。鉄道技術、ロボット、自動車、造船など広範囲に及ぶ。「(造船業で中国遠洋海運集団と川崎重工業が出資して設立した)南通コスコ開運川崎は、わずか10年間で日本の造船業の50年、韓国の造船業の30年を歩み切った」(ダイヤモンド)と論ずる。すなわち、現状では、日本も独自の技術を持って製品開発を進め、世界シェアの維持、中国の攻勢に対抗しているものの、手を抜くとすぐにでも追いつかれる状況になっているというのである。
東洋経済はこれまでの日中の関係について、「40年も前から日本を含む外資企業は中国のしたたかな“術中”に陥っていたのかもしれない。中国で儲けたいならば汗をかく『奉仕』と簡単には逃げ出せない『束縛』が求められるのだ」と指摘しているが、そのような中国の思惑すなわち世界覇権への野望については、日本企業だけでなく日本のメディアも少なくとも20年から30年前には気付いておかなければならなかったのである。
(湯朝 肇)





