自民党総裁選をめぐり慎重に石破氏を持ち上げモリカケ論争を煽る朝日
◆「天敵」の敵は味方
「敵の敵は味方」。孫氏の兵法では聞かないが、時に耳にする諺(ことわざ)だ。ネットのフリー百科事典「ウィキペディア」のパロディ版(アンサイクロペディア)はこんな風に書いている。
「敵の敵を味方に引き込むには、敵対心を煽るのが効果的である。『あんな酷いことしてるんだぜ、消えるべきだよな』、と言った敵の悪いところを繰り返しアピールすることによって、元々あった敵対心を更に増大させることができる。しかし、煽るときに、同じ相手に敵対心を抱いていて、利用しようとしていることを悟られてしまうと、全てダメになるので、慎重に煽ることが求められる」
自民党総裁選をめぐる新聞報道とりわけ安倍晋三首相を「天敵」としてきた朝日を読んでいると、この「敵の敵は味方」のパロディー解説が浮かんでくる。対立候補の石破茂氏に対して実に慎重に肩入れしているからだ。
先月、安倍首相が総裁選への出馬を表明すると、朝日社説は「石破氏は政策テーマごとの討論会を提案している。論戦を実のあるものにすべく、ぜひ実現してほしい」(8月27日付)と、石破氏の主張に同調した。
石破氏は立候補を表明した際、「正直、公正」をキャッチフレーズに掲げたが、党内の反発に配慮し引っ込めた。それには「首相の政治姿勢に対する批判を、個人攻撃として排除しようとする側に問題があるが、政権の問題点を指摘できないようでは、総裁選に名乗りをあげた意味がない。石破氏にはひるまず首相に論戦を挑んでほしい」と、あくまでも悪いのは安倍陣営だとし、慎重に石破氏を持ち上げモリカケ論争を煽った。
◆総裁選延長論を支持
9月に入ると、こうも言った。「自民党、とりわけ安倍首相の視野には、国民の姿などないかのようだ。首相が立候補を表明してから1週間余り。新たな3年の任期に臨む政権構想はいまだ示されず、記者会見も開かれない。挑戦者の石破茂・元幹事長が早々に公約を発表し、討論を求めているにもかかわらずである」(4日付社説)。
安倍首相は現職なのだから、政策を継続するのは知れたことだ。これに対して挑戦者には「公約」が欠かせないから、石破氏が掲げるのは当たり前だ。討論は必要だが、安倍首相に政権構想がないとか、「安倍首相の視野には、国民の姿などないかのようだ」というのは言いがかりだ。
総裁選の告示前日の6日に北海道胆振東部地震が発生し、3日間、選挙運動が自粛された。すると朝日は「実質的に短縮された選挙期間の中で、論戦の機会を十分に確保し、濃密な政策論争を実現しなければいけない」(8日付社説)とし、石破氏の総裁選延長論を支持した。
そこまで論戦を唱える朝日だが、その論戦の中身は何かというと、総裁選は「『安倍1強』を総括する時」(11日付社説)で、「1強の弊害があらわになった安倍政治の総括なくして、先に進むことは許されない」。それは「森友・加計問題に正面から向き合えるかどうかだ」で、あくまでもモリカケなのだ。
◆憲法論議には水差す
では、安倍首相が最も重視する憲法改正論議はどうか。安倍首相の自衛隊9条加憲論と石破氏の9条2項削除論を紹介するが、それには踏み込まず、「ただ、少子高齢化や人口減など、政治が全力で取り組まなければならない課題が山積するなか、国民の多くがいま、憲法改正を求めているとはとても思えない」と水を差す。つまり朝日の「濃密な政策論争」は憲法抜きなのだ。
これに対して産経は「自衛隊明記の意義を説け ゴールは『2項削除』と確認を」(8月28日付主張)、本紙は「最大の論点は憲法改正だ」(11日付社説)、読売は「憲法改正へ踏み込んで論じよ」(15日付社説)と、朝日とは対照的に憲法を主要テーマに据える。
朝日にとって石破氏の9条2項削除論は安倍首相の9条加憲論より“過激”で、産経が主張するように改憲のゴールだ。その意味で石破氏こそ最大の敵のはずだが、批判を封印している。
これはアンサイクロペディアが言うように、同じ相手に敵対心を抱いていて利用しようとしていることを悟られてしまうと、すべてダメになるからだろう。朝日の総裁選論調はパロディー(滑稽)だ。
(増 記代司)





