米中の貿易戦争と覇権争いを経済史から読み解こうとしたエコノミスト

◆米中が報復関税合戦

 米中間で貿易関税をめぐる駆け引きが激しさを増している。

 米国政府は6月18日に2000億㌦相当の中国製品に対して10%の追加関税を課すと発表。さらに翌7月6日には中国に対して知的財産権を侵害したとして同国から輸入するハイテク製品に対して、25%の追加関税を発動した。対象品目は自動車や情報通信機器で年500億㌦相当に揚げ、第1弾として340億㌦相当の輸入品に追加関税を発動。時期を見て第2弾として160億円相当の輸入品にも高関税を課すとしている。

 一方、中国も同じ規模で米国からの輸入品に同規模の報復関税を実施すると応酬。米国からの第1弾の追加関税に対しては、米共和党の大票田である農業州の産品である大豆や鶏肉など、やはり500億㌦規模の品目に対して報復関税で対抗。米国は対中制裁の対象を最大で4500億㌦(約50兆円)規模にする可能性を示唆しており、これが実施されれば、中国からの輸入品全てに追加関税が実施されるということになり、貿易戦争は一層深刻な事態に陥る。

 果たして米中貿易戦争は落ち着くのか。およそ1世紀にわたって覇権を握ってきた米国。他方、米国に追いつき、あわよくば世界の覇権を握りたい中国。両国の覇権争いはしばらく続く気配を見せている。

◆存在感を示す元、清

 そうした両大国の動向を、歴史の流れからひもといてみようと週刊エコノミスト(8月14、21日合併号)が特集を組んだ。見出しは「歴史に学ぶ 経済と人類」。かつてのローマ帝国の滅亡と現代の米国、資本主義の本質、産業革命の意義、さらに夢を追う習近平中国国家主席の野望など、覇権を求めた国々の歴史の末路を参考にしながら、現代という時代を読み解こうというのである。

 特集はまず、ローマ史を挙げる。地中海を制覇したローマ帝国衰亡の歴史と現代の米国の変容を比較。また、近代西欧を築き上げた産業革命と、その根底にある資本主義の本質と限界を指摘、さらに繁栄と滅亡を繰り返してきた中国史を垣間見る。

 この中で中国について言えば元、清朝を分析する。現在、中国は東アジアのみならず世界規模で存在感を示しており、とりわけ米中貿易戦争においては、その行方次第では世界経済に大きな影響を及ぼしかねない状況になっている。

 もっともエコノミストは中国が世界に存在感を示したのは今だけではないと強調。「10世紀に前後して成立したキタン(契丹)と宋という国家がそうした動向を代表している(存在感を示した)。キタンは現在の中国の内モンゴル地方から興り、華北から中央アジアに至るまで、草原世界を制覇した屈指の遊牧国家だった…。かたやその南に対峙した宋はよく知られるように中国史上、最も狭小な支配領域の王朝政権だった。とはいえ、当代では世界随一の経済大国である…。やがて、(双方は)、統一に至った。13世紀初めに登場したモンゴル帝国(元)である」(岡本隆司・京都府立大学教授)と説明し、さらに17世紀初頭に登場した清朝においては、同世紀末には国内の平和を回復させ、西欧諸国との貿易が飛躍的に拡大し、「18世紀の中国は、同時代の『覇権』国家イギリスにすぐるとも劣らぬ規模と水準の経済だった」(同)と力説する。

◆軋轢生む強引な手法

 中国の習主席は、2012年11月(当時、党総書記)に「中国民族の偉大な復興の実現が、近代以降の中華民族のもっとも偉大な夢である」と述べている。さらに「21世紀において中国が世界のナンバーワンの強国になること」を構想に抱き、それらを実現すべく15年に、中国の製造業10年間のロードマップともいうべき「中国製造2025」を打ち出した。ここには、45年までに中国の製造業が世界の中でトップになることを目指しており、そのためには多大の政府資金援助も惜しまないとされている。

 習主席が思い描く中国とはまさに、かつて世界に影響力を及ぼした元、清朝あるいは大船団でヨーロッパを行き来した明朝永楽帝の鄭和の時代を夢見ているのであろうか。

 18世紀の産業革命が英国を「世界の工場」とし、世界の覇権を握らせたとしても、産業革命を実現するには長い年月と蓄積を要していた。一方、建国からわずか70年足らず、しかも一党独裁の中国が強権を発動して覇権を目指す。自国で目指す分にはいいが、国際ルールを無視した強引な手法は至る所で軋轢(あつれき)をもたらす。周辺国に迷惑だけはかけてほしくない。

(湯朝 肇)