シリコンサイクル長期化で活況を呈する半導体市場と米中の思惑を分析
◆存在感を示す日本勢
かつて半導体はわが国にとって“産業のコメ”と言われた。世界シェアの半分近くを占め、日本経済の屋台骨を支えていた。しかしながら、その後に韓国をはじめとして海外勢の猛追を受け、ナンバーワンの座を明け渡し不況産業の代表として捉えられる感があった。ところが、ここにきて半導体産業が活況を呈しているというのだ。それは韓国や米国など海外だけの話ではなく、日本も巻き込んだ話で、しかも存在感をしっかりと示しているというのである。
そうした半導体市場を、週刊エコノミスト(7月10日号)と週刊東洋経済(6月30日号)が特集を組んでいる。「怒涛(どとう)の半導体&電池」と題された東洋経済の記事には、「半導体製造装置や材料といった川上の分野では日本勢が強みを発揮している。400~600工程もあると言われている半導体の製造は日本企業なくして成り立たない」と綴(つづ)られている。
繰り返しになるが1990年代、半導体の集積回路の日本勢のシェアは49%を誇っていたのが、2017年には7%に落ち込んでいる。それでも製造装置に関して言えば現在でも世界の売上高トップ10に東京エレクトロンなど日本勢が5社ランクインするなど存在感を示している。
こうした半導体市場が活況を呈している背景には、スマホなどの普及でインターネットに接続する時間が大幅に増えたことがある。今後、自動車などさまざまな媒体を通してネットが広がっていくとさらなるデータ量の増加が見込まれ、そのデータを保存するNANDと呼ばれる半導体への需要の広がりがあるというわけだ。「半導体は一定の周期で需要の山と谷が訪れる『シリコンサイクル』が一般的と言われてきた。しかし、16年にはサイクルが超長期化した『スーパーサイクル』に突入している」(東洋経済)と強気の見方を示す。
もう一つ日本勢が強みを見せるのが「パワー半導体」。メモリー半導体やロジック半導体はチップに回路を形成する加工は表面のみに施すのに対し、パワー半導体は構造・機能上、表面に回路を形成した上で裏面を研磨して薄くする裏面加工が施される。主な機能は、直流・交流の変換、周波数の変換、電圧・電流の制御などが可能だ。従って、モーターを低速から高速まで精度良く回す、太陽電池で発電した電気を無駄なく送電線に送るなど日常使う電気器具には欠かせないものになっている。こうしたパワー半導体で日本企業は世界ランクの上位を占めているのである。
◆懸念材料は米中関係
ところで、こうした上昇基調にあるとみられる半導体市場に懸念材料がないわけではない。それは米中貿易戦争である。米中に絡んだ半導体競争については東洋経済もエコノミストもそのリスクを指摘する。「米国が警戒しているのは、中国政府が世界の製造大国になることを目指し打ち出した中期計画『中国製造2025』だ。…。中国が製造大国になるためには現在15%という半導体自給率を飛躍的に高める必要がある」(エコノミスト)とし、さらに「一党独裁の指導下による技術促進策は、米国に比べて有利だ。…。(中国の半導体産業が成熟し)、半導体市場が増大すれば単価が安くなる。単価が安くなったところで世界市場にデファクトスタンダード(世界標準)としてインフラごと輸出する」(同)と中国の覇権を懸念。米国にとって中国は脅威の何物でもないというわけだ。また、東洋経済も「トランプ氏は『中国製造2025』を名指しで批判している。中国の半導体振興策が当面、米中の火種であり続けるのは間違いない」と明言する。
ここで言う「中国製造2025」とは、15年5月に中国政府が発表した製造業発展のための10年間のロードマップのこと。そこには、半導体自給率を20年までに40%、25年までに75%に引き上げるという数値目標を掲げている。半導体は自動車やIT産業などばかりでなく兵器産業など国家安全保障とも密接に関係する。「半導体技術を確立することは経済力を高めるばかりでなく国際的な覇権にも近づく」(東洋経済)と指摘するように自由主義陣営にとっても中国の動向は看過できないもの。
◆必須条件の技術革新
かつて18世紀後半から19世紀後半まで産業革命で世界を席巻したイギリスが、その後、フランス、ドイツに追いつかれ、ついには米国にその座を明け渡してしまった。その要因の一つに産業的にも構造的にも持続的なイノベーションができなかったことがある。そういう意味では、中国の動向を見ながら自由主義陣営は国益を見据えながらストイックなまでの技術革新が必要なのである。
(湯朝 肇)