知識中心の性教育に偏り不適切な情報を流した「あさイチ」性教育特集
◆「実践的な特別授業」
NHKは最近、総合テレビ・Eテレを問わず、早期からの性教育を後押しする姿勢を強めている。性を真面目に考えることには賛同するが、どの番組も知識中心の教育に偏り、性の本質とも言える生命の尊厳を深く考えることにつながっていないのだから、何のための性教育なのか、と首を傾げてしまう。
朝の情報番組「あさイチ」も「性についてまじめに考えてみた」(NHKがテレマップで流す文言)という方針に乗って、18日放送では性教育特集を組んだ。題して「どうする? 子どもへの性教育」。
特集の中心になったのは医師と助産師だったが、これら医療の専門家たちの指導内容や発言には「それって、ほんと?」と疑問を持つ内容が少なくなかった上に、幼児期からの知識中心の性教育を支持するゲストばかりがスタジオに登場するという偏向放送にはうんざりした。
まず驚かされたのは、秋田県が行っている中学生向けの「実践的な特別授業」。小児科医が「セックスと子供を産むことは区別して」と語ったかと思えば、産婦人科医は避妊効果や性感染症対策で「一番効果的なのはコンドームだ」と教える場面が紹介された。
なぜ、そんな特別授業が行われたかというと、同県では2002年頃まで、10代の人工妊娠中絶実施率が全国平均より高く、若者の中絶や性感染病の実態に直面していた医師からの申し出で、特別授業が始まった。今は、同県の中絶率は全国平均より下回ったという。
◆生命の尊厳は素通り
「あさイチ」に限らず、NHKは他の番組でも、妊娠や避妊をはじめ、性についての医学的な知識を早いうちから教える必要があることの事例として、秋田県による中絶率低下を挙げているが、見落とされているのは性教育の効果でそうなったのではないことだ。それは「あさイチ」も認識していたらしく、同県で教師を指導している教育専門家が「(教師たちが)日頃からやっていた積み重ねがあって、たまたまその上に講座が乗った」という発言を紹介した。
では、何を実践したかと言えば、道徳で命の大切さを教えることなどをしっかりとやっていたのだ。性を考える場合、命の尊厳とどう結び付けて考えることができるか、ということが何よりも大切な視点だろう。しかし、番組はそこには深く踏み込まず、前述のような専門家による知識中心の性教育講座に多大な効果があるように思わせる番組構成になっていた。
性行為と妊娠を区別し、コンドームについての指導を行えば、無責任な性行為を助長するだけでなく、命の尊厳を教えることを難しくする。秋田県の医師たちのように、妊娠中絶や性感染症を減らすことだけに目を奪われていたら、性教育はその本質が見えなくなってしまう。他の自治体で、医師による知識中心の講座をやっても効果どころか逆効果になる恐れがある。その意味からも、同県を事例に出すなら、知識中心の性教育以外に、学校で実践したことを詳しく視聴者に伝えるべきだが、それをしないところに番組の意図が表れていた。
◆助産師の指導に偏り
もう一つ、助産師の指導の偏りもあった。母親を集め、幼児期からの性教育講座を開き、男の子は小さい時から「亀頭と包皮の間に恥垢(ちこう)がたまり」、将来それが女性の子宮頸がんの原因になるから、性器を剥(む)いてしっかり洗うことを幼児期から習慣付けるように、と指導している助産師がスタジオに登場した。
それを見て、そんなことに無頓着に育ち、それでも何事もなかった筆者としては「本当かよ?」と疑問に思ったが、案の定、「小児科医と小児外科医から、必要ない。むしろやめなさいと言われた。逆にバイ菌が入り、化膿(かのう)しやすくなると言われた」というメールが届き、番組の最後に件(くだん)の助産師は「清潔に保つことが目的で、剥くことを目的にしないでほしい」と、発言の修正を余儀なくされた。
メールが届かなかったら、全国の視聴者はそれが正しいと誤解したであろう。幼児期からの性教育を推進したいばかりに、NHKに人選に偏りがあった証左である。
(森田清策)





