来年度予算の概算要求基準に「膨張の歯止めなし」と批判の各紙

◆安倍政権で税収増加

 来年度予算の編成に向けた作業がスタートした。政府が決めた、予算の大枠となる概算要求基準に対して、社説で論評を掲載した各紙の論調は総じて厳しいものになっている。

 掲載日順に社説見出しを並べると、次の通りである。11日付で読売「政策効果の吟味を徹底せよ」、日経「消費増税対策の財政ばらまきはやめよ」、12日付で朝日「歳出膨張抑えられるか」、13日付で毎日「膨張のすすめではないか」――。

 厳しい理由は、大きく次の4点、すなわち、①歳出総額の上限がない②社会保障費の伸びを抑える数値目標を今回見送った③成長分野に予算を重点配分する特別枠に、関連性の薄い要求が入り込みやすい④別枠で設ける消費増税対策費である。

 毎日は、①の歳出総額の上限を設けないことで、来年度予算は5年連続で100兆円の大台を突破しそうなため、「来年度から新しい財政健全化計画が始まるとは到底思えぬ内容だ」と批判のトーンが最も強かった。

 ④の消費増税対策費についても、毎日は、上限のない「青天井」だ、として「さらに懸念される」とする。来年の参院選を控え、大規模な対策にお墨付きを与えるようなものだ、という具合である。

 ただ、同紙は「安倍晋三首相は痛みを伴う歳出抑制を素通りし経済成長による税収増に頼ってきた。結局税収が伸び悩んで借金漬けは変わらず、健全化計画の見直しを余儀なくされた」としたが、事実誤認がある。

 安倍政権で税収が伸び悩んだのは、円高などに見舞われた2016年度だけで、税収は総じて増やしてきたのが実情で、17年度も好調な企業業績を背景に58・8兆円と、1990年前半のバブル期並みの水準に戻っている。

◆急務の社保制度改革

 この点では、「歳出膨張抑えられるか」と同様な論調ながらも、税収増の現状を認め、「歳出拡大圧力を抑えなければ財政健全化はおぼつかない」とした朝日の方が実情に近いと言える。

 朝日は、18年度の国の予算の姿を、ほぼ同規模の税収があった91年度と比較して、社会保障費は2・7倍の33兆円に、借金の返済費である国債費は1・45倍の23・3兆円に増えたとして、「その他の政策に使える予算は極めて限られている。そのことを自覚し、各省とも事業の優先順位を吟味して要求しなければならない」と強調したが、毎日よりは説得力がある。

 「政策効果の…」とした読売も、大意としては朝日とほぼ同じ。④では、「住宅や自動車の購入支援が想定されている。予算のバラマキを廃し、消費を喚起する効果的な施策に絞り込むことが大切だ」と成長重視の読売らしさを見せたが、財政健全化に重きを置いたため、建前論に終始し物足りなさが残った。

 日経は、財政健全化の難しさを自覚してか、消費税対策など批判や注文は少なく、最も現実的な論調と言える。社会保障費の伸びを抑える目標設定がなかった点についても、そうした小手先の対応より「抑制のため制度改正も含めた改革を急ぐべきだ」と本筋を問うている。

◆“強靭化”の視点欠く

 今回の論評で、西日本豪雨対策費に言及したのは日経と毎日の2紙のみ。日経は本年度予算の予備費で充てる政府方針に、「災害復旧や防災対策など真に必要な歳出をしっかり手当するのは当然」として、そのためにも非効率な歳出は抑えるべきだとした。

 もう一つの毎日は、防災の大切さを改めて認識させた、としながらも、「とはいえ公共事業の安易な拡大は禁物だ」と説いた。

 今回の豪雨災害に限らず、災害被害を未然に防ぐ、あるいは減殺するダムや堤防などの構造物は、災害が起きなければ、その有難みが分からないものである。

 だからこそ、特に小泉政権の構造改革路線以来、公共事業費は財政の無駄遣いの象徴として削減され、民主党政権時では「コンクリートから人へ」と蔑視されてきた。

 しかし、地球温暖化の影響もあり、「数十年に一度の災害」が頻発する時代になり、防災施設の安全基準を見直さなくてはいけない時期を迎えている。真の国土強靭(きょうじん)化である。先の2紙にはそうした視点がない。

(床井明男)