2014年問題を特集するも事実に忠実、公正に向き合う姿勢見えぬ朝日
◆“信頼回復策”を自賛
朝日の2014年問題。そう言われてピンとくる人はなかなかのメディア通だ。朝日10日付オピニオン面の「あすへの報道審議会」(第7回会合、6月24日)の特集は、朝日自身の2014年問題についてこう記している。
―朝日新聞社は14年9月に記者会見し、記事に問題があったことなどを謝罪した。内容は、同年5月に報じた東京電力福島第一原発事故の「聴取結果書」(吉田調書)に関する記事を取り消す▽慰安婦報道の検証特集を同年8月に掲載したが、過去の一部の記事を取り消しながら謝罪しなかった▽この検証記事を批判する池上彰さんのコラム「新聞ななめ読み」の掲載を一時見送った、というもの。会見をした当時の社長らが同年12月に辞任した―
こう言われて思い出した人もいるだろう。これが朝日2014年問題。それから4年を経て朝日は変わったのか。特集は「『読者とともに』できていますか―信頼回復、めざした3年半」と題し、編集幹部と審議会の識者、読者らの座談会を組んでいる。3年半は社長辞任後に信頼回復策を発表してからの年数だという。
その中で編集責任者だった長典俊氏(現・執行役員、名古屋本社代表)は「失った『信頼』を取り戻す。その思いから『信頼と共感のジャーナリズム』を方針に打ち出した。それはファクト(事実)に忠実、公正に向き合い、『どう読まれるか』を意識した紙面づくりだ。事実と論評・主張を切り分け、多様な意見を紹介する。誤りは率直に認める。朝日らしさの追求として調査報道に力を入れた」と自画自賛している。
◆読者の発言に猛反論
本当にそうなのか。見出しには「以前の押しつけがましさ 変化も」とある。これは座談会に参加した読者(59歳・会社員)の発言からのもので、会社員は「14年の一連の問題に『やっぱりな』と思った。前年の特定秘密保護法案を巡る朝日の報道は『反対』一色。どんな法案なのか判断材料が欲しいのに、この押しつけがましさが暑苦しかった。ただ、問題発覚後は変化も感じる」と述べている。
だが、その変化が本物かは会社員も懐疑的で、「森友学園問題も加計学園問題も、朝日新聞は安倍首相が嫌いだから、政権をつぶす意図を持って書き続けているように見える」とも語っている。
これに対して政治部長や社会部長ら編集幹部は「それは実態とは異なる。メディア分断の今、記事が政治的に色分けされるのはある程度仕方ないが、事実に徹底的に向き合い、多様な読者に届ける意識を大事にしている」(政治部長)などと容赦なく反論を浴びせている。
このやりとりにさすがに違和感を覚えたのだろう、湯浅誠・法政大学教授は「(会社員のように)感じる人は多い」と発言に向き合うよう促しているが、これにも聞く耳を持たない。これが朝日の体質、押しつけがましさと言われているのに4年経っても態度を変えない。改めてそう実感させられる一幕だ。
14年以降、安保関連法案には「戦争法案」のレッテルを貼り、テロ等準備罪には「居酒屋で『上司を殺してやろう』と意気投合しただけで処罰される」といった根拠なき「共謀罪」へとすり替え、森友問題ではありもしない「安倍晋三記念小学校」と報じ、加計問題では「安倍首相の友人」という一点で「晴れぬ疑念」と言い立てている。
◆慰安婦問題でも変節
何よりあきれたのは慰安婦問題での変節だ。16年2月、ジュネーブでの国連女子差別撤廃委員会の対日審査で、政府代表の杉山晋輔外務審議官は強制連行説が「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏による「捏造」で、それを朝日が大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」と指摘した。
すると朝日は、杉山発言は「根拠を示さない発言」と断じ、外務省に「遺憾である」との文書を提出した(同19日付)。14年に誤報を認めたはずなのに国連でそのことが明かされると、卑劣にも手のひらを返した。
朝日からファクトに忠実、公正に向き合う姿勢を見いだすことはできない。「読者とともに」「信頼と共感のジャーナリズム」は一部の朝日信者に向けた宣伝文句で、信頼回復にほど遠いと言うほかない。
(増 記代司)





