米国の対中貿易制裁にデジタル技術めぐる覇権の視点で迫った産経
◆中国の戦略にも問題
日経「米中の貿易戦争で世界を危険にさらすな」(17日付)、毎日「貿易戦争に勝者はいない」(同)、読売「制裁と報復の連鎖を断ち切れ」(19日付)、産経「これで覇権を阻めるのか」(同)――。
米国が知的財産権の侵害を理由に、年5000億ドル(約5・5兆円)相当の中国製品へ制裁関税を課すと発表。それを受け、中国が制裁が発動されれば、直ちに同規模の報復関税を掛けると応酬したことについて、論評を掲載した各紙の社説見出しである。
世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める、1位、2位の経済大国間の貿易摩擦は、世界経済にとって穏やかでない。読売などが指摘する通り、「2大経済大国による制裁と報復の応酬は市場や企業の不安を増大させ、世界の貿易や投資を滞らせる」。そして、それは「世界経済の成長を妨げ、米中にも深刻な悪影響が及ぼう」(読売)。
もっとも、今回の動きは単に貿易赤字削減を目指した米国の一方的な措置ではないようである。産経などが指摘するように、「米国による対中攻勢の本質は次世代の産業や軍事力の基盤となるデジタル技術をめぐる中国の覇権拡大を阻むことにある」ことで、「冷静にみるべき点である」(産経)ということである。
米国が問題視しているのは、中国の国家戦略「中国製造2025」である。この戦略の下で、中国は国内産業を保護しているが、「外国企業に技術移転を強要したり、自国産業に不当な補助金を投入して優遇したりするほか、サイバー技術を巧みに使う情報窃取も後を絶たない」(同紙)状況なのである。日経も「その重点分野の多くが今回の制裁対象に含まれており、技術覇権をめぐる米中の攻防が絡んでいるのは間違いない」と指摘する。
◆米と日欧の対立憂慮
さらに、中国の広域経済圏構想「一帯一路」である。産経は「勢力圏拡大を図る権威主義的な体制を、国際社会に広げようとする既存秩序への挑戦だ」と分析、日経もこれに対して、「米国は封じ込めの圧力を強めている」と指摘。「こうした覇権争いが底流にあるだけに、米中の貿易摩擦も一朝一夕には解決しそうもない」(日経)というわけなのである。
こうした米国の懸念、特に知的財産権の侵害などは、もちろん、日欧など他の先進国も共有している。だからこそ、読売なども「米国の問題意識は理解できる」としているのだが、やはり「国際ルールを無視して制裁を振りかざす、トランプ米大統領の強引な手法は許されない」(読売)わけで、日経も「遺憾だ」としたが、尤(もっと)もである。
この点は、各紙が指摘する通り、「主要国が連携して改善を促したい」(日経)、また「連携し、世界貿易機関(WTO)の手続きなどに則(のっと)って、解決を図っていくのが筋」(読売)で、「中国が今の路線を抜本的に改めるべきは当然」(産経)なのである。
ただ、こうした点で産経が最も憂慮するのは、米国自身の措置がWTOのルールに違反する恐れがあり、しかも日欧などの同盟国に対しても、鉄鋼などで保護主義的な輸入制限を掛けていることである。同紙は「問題は、日欧と対立してまで米国がなりふり構わず動くことにより、本当に中国の覇権主義をとどめられるかどうかだ」とするが、同感である。
◆米批判一辺倒の毎日
これまでにリベラル紙で唯一、論評を出した毎日は、先述の保守系3紙と同様、「超大国の一方的な制裁は、世界的な混乱を招くだけである」と対米批判を展開した。
中国による知財権侵害については、日欧も批判するなど長年の懸案だとしながらも、「もっと問題なのはトランプ政権の独善的な対応である」と指摘。また、米国が中国政府による巨額の補助金の停止を求めたのに対し、中国が拒んだことには、「制裁対象はハイテク製品も多い。だが貿易をゆがめるような補助金ならば、WTOなどで是正を求めるべきだ。力づくで迫る手法は国際ルールをないがしろにするものだ」とした。
確かにその通りなのだが、先の保守系紙が見せた米国への理解はなく、米国が行動に至った中国のこれまでの姿勢に対しても批判の指摘は見られなかった。推して知るべし、か。
(床井明男)