拉致をめぐる日朝交渉開始を前に注意を要する「治安潰し」の朝日言論
◆スパイ防止法に反対
国民の生命を守る。それが国家の第一義の使命だ。だから治安に万策を尽くす。このことを改めて思うのは、米朝首脳会談を受けて日朝交渉が始まろうとしているからだ。
なぜ北朝鮮による日本人拉致を主権の及ぶ領土内でたやすく許したのか。長年、警察で北の対日工作の捜査に携わった佐々淳行・元内閣安全保障室長はこう述べている。
「我々は精一杯、北朝鮮をはじめとする共産圏スパイと闘い、摘発などを日夜やってきたのです。でも、いくら北朝鮮を始めとするスパイを逮捕・起訴しても、せいぜい懲役一年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していくのが実体でした。なぜ、刑罰がそんなに軽いのか―。どこの国でも制定されているスパイ防止法がこの国には与えられていなかったからです」(月刊誌『諸君』02年12月号)
佐々氏は、「もしあの時、ちゃんとしたスパイ防止法が制定されていれば、今回のような悲惨な拉致事件も起こらずにすんだのではないか。罰則を伴う法規は抑止力として効果があるからです」と述懐している。
ところが、スパイ防止法の制定に猛反対したのが朝日だった。1970年代末に同法制定運動が起こり、80年代半ばには制定を求める請願・意見書の採択が地方議会の過半数を超えた。
これに対して共産党はスパイ防止法潰(つぶ)しに乗り出し、85年5月、党中央委員会に「国家機密法対策委員会」を設置。新聞労連は同年7月の第35回定期大会でスパイ防止法案粉砕を決議した。これに朝日が呼応し、社を挙げてスパイ防止法潰しに動き、86年11月25日付ではその日の紙面の半分を埋め尽くす反対特集を組んだ。今もスパイ防止法に反対している。
◆有害情報規制に反対
拉致事件だけではない。防犯カメラでも「監視カメラ」と呼び、プライバシー権が侵害されるとして設置に異議を唱えた。共謀罪もそうだ。国際テロを防ぐため国連は2000年、「国際組織犯罪防止条約」を採択し、加盟国に共謀罪の創設を義務付けた。それで政府は再三、同法案を国会に提出した。
だが、朝日は「一般市民も飲み屋で相談しただけで捕まる」などと恣意(しい)的な反対論を張った。共謀罪は中身を薄め、テロ等準備罪として昨年7月に成立した。それでも朝日は反対だ。
こんなこともあった。1980年代末に幼女4人を殺害した当時26歳の男は、幼児性愛者がビデオや雑誌の「有害情報」を通じて幻想と現実の垣根を越えて凶悪犯罪に走った。97年の神戸児童殺傷事件では加害少年(当時14)はポルノ・ホラー映画や残虐ゲーム、有害ネットなどに触発され「性的妄想が膨らんだ末の快楽殺人」(故小田晋・帝塚山学院大教授)に至ったとされた。
そこで各自治体は有害情報の規制を強めようと、青少年健全育成条例を強化したりした。だが、漫画やアニメは野放しにされ、強姦(ごうかん)や近親相姦、女子児童の「過激な性」描写もあったため、東京都は青少年健全育成条例を改正し、有害情報を規制しようとした。
これに対して朝日は表現の自由を損ない、自由な創作活動や芸術文化の振興を脅かすとする反対社説を掲げた(2010年12月3日付)。有害情報を規制するには自治体の条例では地域が限定され、罰則も軽いので、国レベルの青少年健全育成法が必要とされたが、朝日は知らんぷりだ。
◆家庭教育支援に反対
また東京都目黒区で起こったような児童の虐待死では予期しない妊娠で妊婦健診も受けていない母親の事例が多く、妊娠期から切れ目のない支援が望ましい。それで一部自治体は家庭教育支援条例を制定し、子育てサポーターなどを設け支援している。
これにも国レベルの家庭教育支援法を制定しようという動きがあるが、朝日は「家庭教育に国や自治体が関与しようとする動きは、近年、強まりつつある」とし、「法制度での重圧、家庭にかけるな」と批判した(17年10月22日付)。
治安を良くし、家庭を助けて子供を守ろうとすると、朝日の反対に遭遇する。拉致を許したのは「治安潰し」の朝日言論の影響も大きい。日朝交渉で何を言い出すか、ゆめゆめ油断することなかれ。
(増 記代司)