日米同盟関係の弱体化を見据えたサンデー毎日の米朝首脳会談特集
◆和田春樹氏登場さす
トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による首脳会談への評価は日本でも米国でも、あるいは韓国でも散々である。「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)が明確化されなかったからだ。中には「金正恩が勝った」と首脳会談を国際ゲームか何かと勘違いした評価まである。批判の嵐の中で「トランプはよくやった」「米朝首脳会談は意味があった」という肯定的評価はないのかと探してみた。あった。
「この地域において核戦争の可能性を防ぎ、当事国の非核化までしようという大きな動きが始まった。歴史的、画期的な会談だ」
米政府内に「軍事手段派と慎重交渉派があったが、トランプはいずれも退け、早期対話にハンドルを切った。大統領という立場を使って政治的にジャンプしたわけだ」
「トランプも(金正恩に)何度も会おうと言っている。互いに条件を出しあい、一つにまとまれば後退しないように前進していく。信頼を積み上げながら段階的措置を取っていく」
金委員長の「非核化」約束が信用できるという前提、トランプ大統領が北朝鮮の“時間稼ぎ”の手には引っ掛からないという前提に立っての評価である。今後を見てみなければ分からないが、こうした評価ができなくもない。
ただし、これを誰が言っているのかを明かすと、これらの言葉はまるで違った色に見えてくる。この発言はサンデー毎日(6月24日号)で倉重篤郎元毎日新聞論説委員長がインタビューした東大名誉教授の和田春樹氏のものだ。
色眼鏡で見るつもりはないが、これまでの朝鮮問題全般に関する和田氏の言行を見れば、首脳会談への肯定的評価も「そうなるだろうな」とうなずけるし、安全保障の視点から見ても、「反戦」を唱えて日米同盟弱体化を進めてきた経緯からすれば、朝鮮半島から核兵器のみならず米軍までも追い出そうという北朝鮮の確固たる戦略に沿ったものと映ってくる。
◆柳澤氏が意味深発言
続いてこの特集では小泉内閣で内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏にも聞いている。この中で柳澤氏は意味深なことを言っている。長いが引用する。
「北朝鮮と米国の対立関係が解消すれば、在日米軍の駐留の意味は半分なくなる。(略)これまで日米同盟を絶対化し同盟を守るのがすべての基本だとしてきた人々にすぐには受け入れられない。根っこには、米国の核抑止力に頼らざるを得ないというマインド設定から抜け出せないことがある。いい悪いとか、間違いとかではなくて、そうでない選択肢があるという認識をどうしても持てない」
米朝関係の変化で東アジアの安保環境は激変する。どういうふうに振れていくのかは置くとしても、その中で“鉄板の日米安保同盟”でない、あるいは「核抑止力」に頼らない「選択」があると柳澤氏は誘導しているわけだ。いかにも安保法制に反対してきた同氏らしい発言だ。
同特集のタイトルは「安倍外交は崩壊した!」だ。おそらく“トランプに追従する安倍外交”ではもはや通じないということを言いたいのだろう。和田氏にせよ、柳澤氏にせよ、日米同盟関係の弱体化、あるいは解消を見据えた深謀が底に敷かれている。米朝首脳会談を好機として、日米同盟という基本政策への揺さぶりを強めようという意図が透けて見えてくる特集だ。
◆穴だらけの経済制裁
やはり米朝会談への評価は厳しい。ニューズウィーク日本版(6月19日号)は「米朝会談 失敗の歴史」の特集を組んだ。「不信と裏切りの米朝交渉30年史」はもはや言わずもがなだが、今回もやはり「北朝鮮は信用できない」という評価に変わりはない。
「北朝鮮分析サイトの38ノース」によれば、「20~60個あるといわれる核兵器やICBMをアメリカの要求に応じて国外に搬出しても、再開発や製造はいつでも可能だ」という。非核化が中途半端に終われば、「今回も結局、振り出しに戻る可能性がある」のだ。
同誌は、国連安保理の北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員を務めた古川勝久氏にインタビューした。「経済制裁は抜け穴だらけだ」と古川氏は指摘する。経済制裁しようにも日本の国内法は不備だらけだったり、対北制裁に素直に従う国ばかりではない現状を伝えているが貴重な指摘だ。国際社会のしたたかさを知らされる。
(岩崎 哲)





