金正恩氏の外交や指導力を演出する影の北朝鮮組織扱った「報プラ」

◆序列2位の金昌善氏

 注目された米朝首脳会談が行われ、世襲して7年近く外交舞台に出なかった金正恩朝鮮労働党委員長が、国際社会で一躍脚光を浴びた。3月の外交デビューから中国、韓国、米国といきなりトップ会談をこなしたが、10日放送のフジテレビ「報道プライムサンデー」の特集「独白 大物脱北者が“初”証言/北朝鮮の秘密組織と“黒幕”」は、外交その他の指導力を演出する影の組織を扱っていた。

 タイトルにある「“初”証言」した「大物脱北者」は元駐英公使の太永浩氏、「北朝鮮の秘密組織」は韓国でベストセラーになった5月15日発売の同氏回顧録「3階書記室の暗号」に記された「3階書記室」という正恩氏直下の秘密部署。番組司会の佐々木恭子氏がソウルで太永浩氏に聞いた、いわば著者インタビューが軸になっている。

 焦点の「“黒幕”」は、「3階書記室」室長、金昌善国務委員会部長だ。北朝鮮が2月の平昌冬季五輪を機に平和攻勢を掛けた際に韓国入りしたのが分かり、以後、中朝、南北、米朝など首脳会談はじめ重要な外交場面で確認されている。

 番組はそれらの映像に映る人々から、画面中央にはいない「太い眉毛」の昌善氏にスポットを当てた。太氏はその中の一つ、4月の南北首脳会談で赤絨毯(じゅうたん)の上を歩く金委員長と文在寅韓国大統領の後ろを歩いていた金英哲副委員長と金委員長の妹・金与正氏を昌善氏がほかの場所に移動させたシーンを指さした。太氏は、昌善氏が政権ナンバー2だという。ただの誘導かもしれないが、「態度」さえ粛清理由になる国情を踏まえると、英哲氏、与正氏への指図は序列順位を示すとの見方も成り立つだろう。

◆枢要なる神格化組織

 太氏は、政府に入ったら70歳になっても続くキャリア、長年にわたる全ての情報が同室に蓄積される仕組みが北朝鮮の強みであり、「金委員長が若くして大国と渡り合える理由」だと述べていた。

 また、太氏は「金委員長は神のような存在でなくてはならない。全知全能の神様にしなければならない。指導者が全てを知り指導しているというイメージをつくる必要がある。カリスマ性を生み出す、そのための見えざる大きい集団、それが3階書記室だ」と、同室の役目を説明していた。

 北朝鮮は「金王朝」と例えられるが、世界の王室にはキリスト教、仏教など宗教が背景にある。しかし、神仏を否定する唯物論の共産主義を土台に専制統治を行う北朝鮮では、歴史上の王権神授説に支えられた絶対王政とも違い、人間を「神」にしなければならないわけだ。

 そのための部署が影ながら存在し、今や軍や行政府以上の強い力を持つという。ここにさまざまな分野の天才・専門家を集め、報告やアドバイスを受けた金委員長が視察先で“天才的な指導”をする―神格化のカラクリをひもといた興味深い番組だった。ただ、同日放送では触れなかったが、太氏は同著で北朝鮮の粛清などおぞましい恐怖政治の実態を書いている。

◆野党に偏る時事放談

 一方のわが国では、「地球を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げた安倍政権が長いといっても6年目。それまで小泉内閣を例外に短命内閣が続いた。しかも野党になると政権の足を引っ張るのが最優先で、森友・加計問題を延々と繰り返している。

 日曜朝のTBS「時事放談」も同じで、出演者も旧民主党政権側の人々に偏っている。ここ1カ月の出演者も5月13日が立憲民主党の枝野幸男代表、民主党政権時代に菅直人内閣で総務相だった片山善博氏。20日が自民党の鴨下一郎元環境相(石破派=水月会会長代理)と国民民主党の玉木雄一郎共同代表、27日が片山氏と元外交官の田中均氏、6月3日が枝野氏と片山氏、10日が自民党総裁選で安倍首相に対する有力対抗馬と目される石破茂元幹事長、民主党政権時代に財務相、同党最高顧問を務めた藤井裕久氏。

 10日放送で石破氏は、森友・加計問題について国会の予算委員会がそればかりというのは問題だとの認識を示し、藤井氏は北朝鮮など外交問題があろうとも公文書改竄(かいざん)は追及されるべしとの認識を示した。ただ、野党が相変わらず安保・外交を憲法9条の下に「反対」の一言で片付け、森友・加計問題など行政文書問題ばかり詳しくなる国会論議の偏りには不安がある。

(窪田伸雄)