注目される北朝鮮の地下資源 ネックは電力と運搬手段

日本の投資期待する韓国

 “歴史的”と騒がれた米朝首脳会談が行われたが、肝心の「非核化」については「完全かつ検証可能で不可逆的」(CVID)とはいかず、廃棄の日程も米朝双方の隔たった解釈を狭めて一致させることもできず、トランプ米大統領が自賛する「大成功」とはならなかった。

 だが、今後、米朝が段階を踏んで関係改善していく雰囲気はうかがわれ、将来的に経済制裁が解除され、北朝鮮が開かれた“普通の国”になっていけば、ビジネスチャンスが広がるということで、そうした期待感を反映して、既に北に接する中国側や韓国の非武装地帯南側の土地が買われているという。中国はもちろん、ロシア、日本などで北との経済関係を模索する動きも出てきそうだ。

 北朝鮮は鉱物資源が豊富なことで知られている。この開発について韓国の中央日報社が積極的に取り上げている。総合月刊誌「月刊中央」(6月号)では韓国の民間機関である「北韓資源研究所」の崔景守(チェギョンス)所長が「注目される北朝鮮地下資源の規模」を書き、週刊誌「エコノミスト韓国版」(5月7日号)では巻頭特集で「北資源共同開発に乗り出せ」を載せている。これらはいずれも今後本格化していくであろう対北投資を見越したものだ。

 崔所長は5月、東京で行われた東アジア貿易研究会のセミナーで講演し、集まった日本企業の担当者らに対して、「韓国企業と組んで共同進出する」ことをしきりに勧めていた。

 本来ならば、韓国が同族の地にある資源をわざわざ日本を誘って開発しようと言うのは解せないことだ。誘うには理由がある。まず、崔所長が月刊中央にも書いていることだが、主な北の鉱山の大半は日本植民地時代に開発されたもので、設備などはそのまま使っている所が多く、当然ながら老朽化しており、大幅な更新が必要な状態だ。

 最大のネックは電力不足である。鉱山営業にはまず発電所建設から始めなければならず、莫大(ばくだい)な初期投資が必要で、さらに鉄道や道路といった運搬手段の整備も行わなければならず、それを日本に分担してもらいたい、という底意があるのだ。

 これまでも韓国企業は北朝鮮の鉱山に投資した実績がある。ところが、崔所長は「韓国企業は480億ウォン(約49億円)を投資したが、実際に持って来られたのは2億8000万ウォン(約2850万円)の黒鉛だけだった」として、対北ビジネスの難しさを隠していない。

 そもそも北朝鮮では地下資源は「国家財産」で、「統計資料は徹底的に対外秘で統制しているから、正確な資料を得るのは難しい」という。実はここに韓国側の狙いが隠されている。「日本の経験と知識が必要」ということなのだ。韓国では「日本時代に開発された鉱山の資料はいまだに日本が持っている」と信じられている。

 その真偽は置くとして、北朝鮮にはどのような地下資源があるのだろうか。「エコノミスト韓国版」は「開発が可能な北朝鮮の地下資源が2億1600万トンであり、金額にして3000兆ウォン(約304兆円)規模だと試算している」と指摘。崔所長は、「金、鉄鉱石、亜鉛、銅」などが多く、マグネサイトは「世界3位の埋蔵量」だという。他にウラニウム、石炭、石灰石、燐灰(りんかい)石、さらには希土類(レアアース)、そしてモリブデン、ニッケル、チタン、タンタリウム、ニオビウム、マンガンなどの希少金属もある。ただし、これら恵まれた資源があるにもかかわらず、北鉱山の「稼働率は30%」にすぎない。

 かつて日本財団の研究により、北朝鮮の鉱山に対して中国の投資が進んでいることが報告されたことがあった。韓国メディアも「中国が独り占めする」と焦燥感をあおるような記事を書いたりした。この点について崔所長は、「開発権は排他的で譲渡が可能だが、北朝鮮の開発権は私有財産ではないため、北政府の意図や必要に応じて、いつでも契約された開発権を還収することができる」と説明し、中国に与えられたのは「単に契約期間に与えられる採掘権あるいは生産権」だと強調した。

 金大中大統領の訪朝(2000年)を機に韓国企業が北の資源開発に進出した事例は4件にすぎず、前述したように持ち帰ったものはわずかだった。中国が北朝鮮を買い占めているわけでもなく、フロンティアは広がっているように見えるが、リスクもあるという話である。

 「北朝鮮のGDP(国内総生産)において鉱業は全体の13・4%であり、北朝鮮の輸出額の70%を鉱物が占める」(エコノミスト)というだけに、北朝鮮が鉱業への投資、共同開発を求めてくることは容易に予想できる。しかし、韓国としては「8000万ドルの借款の償還」が宙に浮いていたり、「南北合弁で開発した鉱山の契約も履行されていない」(同)状態では二の足を踏んでいるというわけだ。

 いずれ日朝関係も正常化の方向にいかざるを得ない。その際、請求権処理と経済協力を進めていく上で地下資源は大きく注目されていくだろう。日本の目を北朝鮮鉱山に向けようとする意図が透けて見えてくる。

 編集委員 岩崎 哲