視聴率偏重に対して街角コメンテーターの鋭い意見を拾った日テレ特番

◆番組質低下に危機感

 主に受信料や国からの交付金で番組製作を行っているNHKは、視聴率にとらわれず、質に重点を置いた番組作りができるという利点がある半面、製作責任者の思想や思い入れによる偏向や独善から、偏った番組が製作されやすいという危険性が付きまとう。

 報道における偏向はNHKに限った問題ではない。民放の場合、それに加えて、視聴率稼ぎからセンセーショナリズムに陥りやすいという宿命的な課題を抱えている。スポンサーからの広告費で番組製作を行っているからだ。視聴率が低くければスポンサーは付かない。

 専門家でもない芸能人やコメンテーターが視聴者受けを狙って無責任な発言を繰り返すワイドショーが乱立しているのは、民放の視聴率偏重の象徴と言える。その傾向が年々強まり、目に余るようになってきたのは、ネット広告が増える一方、テレビ広告費が減っているからだ。そこに、特に若者層のテレビ離れが重なり、扇情的な番組作りが横行しやすい状況になっているが、番組の質低下に対する危機感を持つ当事者は少なくないようだ。

◆企業文化の貧しさも

 日本テレビは17日(日曜日)、「出張! 加藤浩次の1億総コメンテーター」と銘打った特番を放送した。お笑いタレントで、同局のワイドショーで司会を務める加藤が街角に出て、セクハラ、有名人の謝罪会見など、今年上半期、世間を騒がせたニュースを題材に、視聴者の意見を聞く企画だが、加藤は番組冒頭からワイドショーの質低下に対する危機感を隠さなかった。

 「ワイドショーでコメンテーターも忖度(そんたく)が多い。なかなか本音を言わない。保身に走ったりする。自分もそういう時があって、あまり意味がないなと思っていた」

 たまたま見た番組で、バラエティーの軽い乗りが気になったが、逆にそれが街角の人たちの本音を引き出すことにつながっており、そこで拾った声の中には視聴率偏重をはじめ、現在のテレビを取り巻く状況に対する辛辣(しんらつ)な意見が多く、なかなか面白かった。

 例えば、日大のアメフット部問題をはじめとした謝罪会見について、自由業の男性(77)は「本当に腹の底から謝罪しているのか、あるいははやり物だからやっているのか」と謝罪する側に苦言。返す刀で、「テレビのやってることは汚い。同じ画面を何度も何度も繰り返す。小さなことも大きく見えてしまう。あれはいけないよ」と、局側を切って捨てた。

 この後も、中高年の男性たちから「メディアが騒ぎ過ぎ」「視聴率を取ろうとするテレビ局側、報道の問題」など、批判の声が続出した。これに対して加藤が「ただ視聴率が取れないと番組は終わってしまう」と弁明すると、「視聴率がないとスポンサード(スポンサーになる)しない企業の考え方に間違いがある」、視聴率にかかわらずに良い番組のスポンサーになればいいのであって「そういう価値観を持った企業が出てほしい」と、企業文化の貧しさを嘆く声も。

◆視聴者の成長も必要

 さらに、若者層も負けてはいなかった。美容師の男性(25)は「謝罪を求める社会の空気に応じて謝罪している」のであって、心から謝罪していないし、視聴者も「謝罪を面白がるからいけない」と、番組の質低下の一因は視聴者にもあるという。

 別の美容師の男性(26)の意見はさらに本質を突いていた。「リアル(現実)を伝えるという概念が変わらないとこれは続く。メディアでリアルタイムで伝えるという概念があるが、本質が曖昧なまま伝えている。もっと固まったものを伝えるという認識の日本人が生まれないと状況は変わらない」と指摘した。

 要するに、視聴者とメディアの両方が成長しないから、「浅いリアル」しか流れないという。街角から寄せられたテレビに対する苦言を、番組製作者と高額の出演料をもらっているコメンテーターたちに聞かせてやりたかった。

(森田清策)