18年春闘でそろって企業にデフレ脱却へ賃上げを求めた各紙社説
◆東京さえ成果を期待
17日付読売「デフレ脱却を固める賃上げに」、日経「賃上げでデフレ脱却への決意を示せ」、18日付朝日「試される経営者の見識」、東京「まずはデフレ脱却を」、22日付産経「賃上げも人材への投資だ」――。
経団連が発表した今年の春闘での経営側の指針を受けての各紙社説の見出しである。保守系紙もリベラル系の新聞もそろって、経営側に「デフレ脱却への賃上げ」を訴えた。
特に東京は常々、安倍晋三政権に批判的だったが、この社説では「安倍政権の政策は確実に変化しており、経済全体を押し上げる土台が固まりつつあるのではないか」と評価し、「今春闘で働く現場の労使が賃上げと働き方改革をどこまで前に進められるか。成果を待ちたい」と期待を膨らませる。えらい変わりようである。
東京が言う安倍政権の政策の変化とは、次の通り。大胆な金融緩和で始まり、今年で6年目に入るが、「当初は企業収益重視の政策で経済再生を目指したが、企業は稼ぐ一方で賃金は低迷し、好循環は一向に起きない。湧き起こった批判は、企業ではなく働く人を重視した政策への転換―同一労働同一賃金や非正規社員の正社員化、育児や教育負担の軽減など格差是正と分配の見直し、働き方改革だった」というわけである。
◆数年前から政策変化
東京の指摘を待つまでもなく、安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、もう数年も前から中身が変わってきているのである。
例えば、2016年予算では「1億総活躍社会」の実現に向けた政策を進め、分配に力を入れ始めている。その後も分配を意識した政策は取られ、「看板だけがコロコロ変わる」などと批判もされるほど。成長重視の基本は変わらないまでも、中身が変質してきているのである。「何を今さら、そんなことを」という気がしないでもないが、東京がまともにアベノミクスを見るようになったことは評価したい。
その東京は、経団連が春闘の対応方針に安倍政権が求める「3%」を社会的要請と明記し、「これまでになく前向きの姿勢を示している」と評価し、過去4年の賃上げ率がいずれも2%台にとどまっている状況から、「消費拡大でデフレ脱却を確実にするため経営者に決断を求めたい」と読売や産経などと同様の主張を展開した。この点は、右も左も関係ないということか。
賃上げに関し、産経は「収益力が高まった企業は、業界横並びで賃上げ水準を決める慣行を脱してほしい」と注文を付ける。また、少子高齢化を背景に人手不足が深刻化している中、企業が優秀な人材を確保するためにも待遇改善は不可欠であるとして、「確かな賃上げは、人材への投資につながる」として、同紙は「子育て世代に対する手当を含め、手取り収入のアップに知恵を絞ってほしい」と提案するが、同感である。
◆残業代減をどう補う
また各紙が指摘するように、今春闘では働き方改革、具体的には「残業削減による減収をどのように補うかも大きなテーマ」(日経)である。労働環境を改善する観点から、長時間労働の是正が急務になっているが、大和総研の試算では、残業時間が月平均60時間を上限に抑えられた場合、残業代は最大で年間8・5兆円減るといい、これでは「従業員の働く意欲をそぎかねず、企業にもマイナス」(日経)であり、「デフレ脱却に寄与しない」(産経)からである。
これについて、日経は「生産性の向上がみられるなら、従業員への還元を考えてしかるべきだろう」と言うにとどまったが、産経はさらに「生産性が高まった分だけ賃金に配分するルールづくりが問われよう」と一歩踏み込む見解を示した。
他紙が経団連の春闘方針を前向きと評価する中で、やや冷ややかに見たのは朝日である。同紙は経団連が賃上げに前向きになるのは歓迎だとしながらも、指針を公表した担当副会長の会見では「去年よりは頑張ろうねということ」「結果として2%台でもやむをえない」など、消極的な説明が目立った、とした。
政権との関係を意識してとりあえず書き込んだというのなら、経済界としての見識が疑われる、と。「いずれにしても、労働者への配分を確実に増やす姿勢が企業に求められている」との結論は他紙と同じだが、朝日らしい。
(床井明男)