太陽電池でエネルギー需要を「100%近く」満たせると説くNW日本版

◆太陽光パネル改良版

 「建物や車の窓、携帯電話の画面といった透明な面から大量のエネルギーを取り込むことができたら――それを可能にする新世代の『透明な太陽電池』技術の開発が進められている」という書き出し。ニューズウィーク日本版(11月21日号)が、「透明な太陽電池の可能性は無限大」の記事で、バラ色のエネルギー革命を説いている。

 米国の科学者らが専門誌に掲載した論文を引き合いに出し、「透明度の高い太陽電池の実用化で『アメリカの電力需要をほぼ満たすことができ』、化石燃料への依存を劇的に軽減できるという」として「今後数年で製品が一般市場に出回ることになるだろう」「商業生産にこぎ着けられるだけの十分な性能を達成しつつある」など、研究チームの1人が自画自賛する声を載せている。

 「透明な太陽電池」とは「超薄型の透明なソーラーパネル」のこと。「紫外線と近赤外線の波長を選択的に集光してパネルの縁に誘導し、縁部分にある細い線状の太陽電池で電力に変換するというもの(中略)。高層ビルの窓やスマートフォンの画面に据え付けて発電することが可能になる」

 従来型の太陽光パネルは発電率が15~18%で、開発途上の「透明パネル」は5%前後だが、「今後、発電効率は3倍に改善される」と開発の当事者はみている。研究者たちは「アメリカ国内にある推定50億~70億平方メートルのガラス表面が発電に利用できれば、国内のエネルギー需要の40%を賄うことができる。エネルギーの貯蔵手段が改善されれば『100%近く』になる可能性もある」と続けている。

◆原発に消極的な米国

 いかにも米国人の楽観主義が、研究者たちにも乗り移ったような記事だ。これはこれでテクノロジー開発の現在を語っており、その内容にケチを付けるつもりは毛頭ない。化石エネルギーに依存した文明は曲がり角に来ており、代替エネルギーへの期待を十分うかがわせる。

 しかし、再生可能エネルギーを利用したテクノロジーをクローズアップするにもかかわらず、当の雑誌には、新しい文明を担う役割として、既に半世紀以上前から研究されてきた原子力技術をいかに活用できるかについての前向きな提案が少な過ぎる。新奇な技術の可能性を楽観し持ち上げる意図が奈辺にあるのか、いろいろ勘ぐりたくもなる。

 戦後、アイゼンハワー米大統領は「平和のための原子力」のキャッチフレーズに原子力の平和利用を説いた。だが、ケネディ大統領時代、その長期的視点を描かず、また研究開発に広がりを示すこともなく、短期的に政治・経済的側面からのみ議論が行われ、その結果、原発の技術開発は抑制された。アンチ原子炉の勢力が出没し始めたのはこの頃からで、いまだに、米マスコミの論調として根強い。ニューズウィークにもその傾向が大いに見られる。

 記事は「『従来の太陽電池は50年以上にわたって活発に研究が行われてきたが、透明な太陽電池の研究はまだ5年程度だ。最終的には(中略)安価な太陽電池の普及に道を開いてくれるだろう』。研究の見通しもよさそうだ」と結んでいる。

◆安定供給の視点必要

 再生可能エネルギーの研究が進むわが国でも、発電効率が高い太陽光パネルの開発・実用化が建物の屋上やビルの窓ガラスに設置され、自社ビルのエネルギー供給に役立っている例を聞く。しかし社会全体の安寧維持のためには、エネルギー供給のための安定したネットワーク形成が重要だ。再生エネルギーも生かし人類文明に調和した技術とは何かを考えなければならない。

 原子力と聞くと、即、原子力発電を思い浮かべる人が少なくないようだが、今や原子力はエネルギー部門だけでなく、総合科学技術として、人類文明に欠かすことができない。原子や原子核レベルでの先端核科学研究、放射線を応用した医学やバイオ領域への発展、科学から工学への橋渡しとしての基盤技術として定着している。原子力が基本的に持つ特徴の認識と人類社会との接点を明らかにしていくことに力点を置くことが大切だ。

(片上晴彦)