大筋合意のTPP11に「保護主義圧力に先手」などと評価した各紙
◆日本の努力を称賛
離脱した米国を除く環太平洋連携協定(TPP)署名11カ国が、閣僚会合で新協定に大筋合意した。焦点となっていた米国が戻るまで現協定の実施を先送りする「凍結扱い」は20項目。新協定は11カ国のうち、6カ国の国内承認手続きが完了してから60日後に発効する。
各紙社説はこの大筋合意に「保護主義圧力に先手を打った」(12日付読売)、「自由貿易立て直す土台に」(毎日)などと評価。11日付でいち早く社説を掲載した日経は、「瓦解する懸念さえあった」TPPで、11カ国による新協定に向け議論を主導した日本の努力をたたえ、「TPP11を礎に質高い自由貿易圏つくれ」と鼓舞した。日経は経済紙として、文字通り、「一日の長」ある論調を示した。
新協定は、世界最大の経済大国である米国のTPP離脱により、自由貿易圏としての規模は縮み、経済効果も小さくなる。しかし、日経は「それでも11カ国による協定締結の意義は大きい」と強調するのである。
日経が強調する新協定の意義とは、次の三つ。①関税の撤廃だけでなく、きわめて質の高い貿易・投資ルールを定めていること②東アジア地域包括経済連携(RCEP)など他の通商交渉を刺激し、それらの貿易・投資の自由化度合いを高めていく効果③米国が日米2国間の自由貿易協定(FTA)締結を求めてきても、日本は「新協定の内容より譲れない」と理不尽な要求を退ける防波堤として活用できること――。
③はまさに、読売社説などが見出しに取った内容である。トランプ米政権は、「偏狭な自国第一主義を振りかざ」(読売)している。北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉では極端な米国優遇を求め、米韓FTAでは韓国に再交渉を無理強いした。日本に対しても、対日貿易赤字を理由に、日米FTAの交渉開始に強い関心を示しているからである。
◆課題は米国の復帰
産経(12日付)はさらに、「中国の台頭をにらめば、域内の経済的な結びつきを強める巨大協定を日本主導で進める意義は大きい」と指摘するが、同感である。
さて、問題は今後である。新協定は、元の協定で米国の主張が強かった一部項目を「凍結」する一方、米国が復帰すれば「解凍」する仕組みを残した。現状、米政権がすぐにTPPに復帰することは考えにくいが、「それでも日本を含む11カ国は粘り強く米国に復帰を働きかけて」(日経)いくことが「筋」(読売)、「基本」(産経)であろう。
朝日(12日付)も「問題は、米国をどうやって呼び戻すかだ」として、保守系紙と認識は同じ。同紙は、「二国間の協定では、ヒトやモノ、カネ、情報が活発に行き交うグローバル化に十分に対応できない」「電子商取引などの新たなルールを広げるためにも、多国間の枠組みが理にかなっているし、米国の利益にもなる」などと説き続けることが日本の役割と強調する。
そのためにも、最終局面でカナダが難色を示して首脳会合での合意宣言が見送られたのは残念だが、「カナダを含め11カ国で新協定をできるだけ早く発効できるよう努力してほしい」(日経)ということである。読売は特に、新協定まで主導した日本に対し、「今後も各国と丁寧に意思疎通を図り、協定発効まで足並みが乱れぬよう意を尽くしてもらいたい」と求めたが、もっともである。
◆東京は冷めた見方
そして、11カ国による協定発効後は「韓国や台湾、タイ、フィリピンといった国・地域にも門戸を広げることが課題」(日経)である。日経は、TPP11は質の高いアジア太平洋の自由貿易圏づくりに向けた大きな礎であるとして、「日本は常にこの地域の自由貿易の先導役を果たなければならない」と強調した。これまた同感である。
これらの新聞と違って、「いくつもの協定づくりが競合し、むしろ混迷の度を深めている」と冷めた目で見ているのが、東京(14日付)である。
同紙は「自国や自国が加わるグループの利益と主導権争いがあらわになった一週間といえる」「世界貿易機関(WTO)の新たな交渉も行き詰まっており、貿易秩序を巡る混迷はまだまだ続くとみられる」と他紙と大きな違いを見せた。
(床井明男)





