EV開発で立ち遅れ大きな岐路に立たされる日本の自動車メーカー
◆世界の潮流はEVに
自動車は今や日本経済の“産業のコメ”となっている。かつて鉄や半導体が日本経済を牽引(けんいん)し、「産業のコメ、メシの種」と言われてきた。それらの産業が中国や韓国に取って代わられた感のある現在、国内産業を見渡せば「自動車一強」といっても過言ではない。ところがここにきて、自動車業界が大きな岐路に立たされている。世界の潮流が電気自動車(EV)へ向かいつつあるのだ。排気ガスを出さず、無公害で環境にも優しいとされるEV。果たして日本はEVでも世界を牽引していくことができるのであろうか。
そのEVに経済誌が焦点を当てた。週刊エコノミスト(11月14日号)は「爆走EVゴーゴー」と題して、EVに向けたメーカーの取り組みが活発化していることを紹介する。一方、東洋経済は10月21号で「経済の試練 EVショック」をテーマに特集を組んだ。見出しから見れば両者の主張は真逆のような印象を受けるが、内容はそう変わらない。ただ、全体的に日本の自動車メーカーのEV開発が立ち遅れている分だけ、東洋経済の記事からは悲壮感がうかがえる。
確かに、EVに関しては欧米メーカーの先行が目立つ。テスラという米国の新興自動車メーカーでさえ2017年上半期において5万台近い販売実績を持つ。欧州でもドイツのBMW、フォルクスワーゲン(VW)が先行し、アジアでは韓国の現代自動車がハイブリッド車(HV)を含めて、約10万3000台(同年同期)の販売実績を持つ。対する日本はトヨタもホンダも販売実績はなく、唯一、ルノー・日産自動車・三菱連合が10年12月から17年6月までの7年間で累計で48万台を生産しているのみ。世界の潮流はEVに傾きつつある中で、「日本経済を牽引してきた自動車産業。その地位はガソリン車からEVへの転換で一変しかねない」(東洋経済)と危機感を表しているのである。
◆環境より競争が動機
ところで、EVが俄然(がぜん)注目されている背景には、中国と米国の動向がある。中国はPM2・5といった深刻な環境問題が発生しており、早急に解決が求められる状況にある。環境問題をテーマにしたパリ協定に加盟した手前もあるのか中国政府は今年9月にメーカーへの燃費規制や新エネルギー車(NEV)の規制を打ち出した。とりわけ19年度から燃料電池車(FCV)、HVなどNEVの割合を年間生産、輸入台数の10%に制限し、それを超えた場合は罰則を与えるという。その上で25年ごろまでにEVなどの次世代車を年間販売台数の2割をもくろむ。
一方、米国ではトランプ大統領がパリ協定からの離脱を表明したものの、カリフォルニア州を含めて米国内10州では排ガス車ゼロを目指し、HVを含むガソリン車の規制を打ち出した。この流れは米国内でも加速していくことは必至。こうした米国、中国の変化に合わせてVWやBMWが大きくEVに傾いているというわけだが、とりわけVWはディーゼル車の不正で大きなダメージを受けただけにEVで巻き返そうと大きく舵(かじ)を切ったとみられている。
もっとも、中国がEVを打ち出す要因を違った観点で分析したのが東洋経済。「EV化の理由として中国が環境問題を挙げるのはあくまで方便。自動車競争をスタートラインに戻し、競争しやすくするため」(みずほ銀行国際営業部・湯進主任研究員)としている。ガソリン車では日欧米の自動車メーカーの技術力がはるか彼方にあり、到底及ばない。それに対してEVはガソリン車のような複雑なエンジンが必要なく、構造がシンプルのため中国の自動車メーカーでも十分に太刀打ちできると読んでのことというのだ。日本に勝つためにはいかなることでも仕掛けるのが中国。あながち湯進主任研究員の読みも的外れではないだろう。
◆得意分野生かす好機
そこでEV開発にこれまで消極的であった日本だが、この先大丈夫なのか、ということである。専門家の一般的な見方では、「EVの部品数は少ないのではガソリン車の半分以下となり、部品メーカーが受けるダメージは大きい」(東洋経済、大前研一・ビジネスブレークスルー大学学長)としながらも、部品メーカーのデンソーは、「EV化は得意分野を生かすチャンスだ」(エコノミスト、篠原幸弘常務役員)と前向きに捉える声も多い。モノづくりは日本の真骨頂だが、何よりも注意すべきは日本の技術が「ガラパゴス化」しないこと。世界の動きに柔軟に対応することのできる発想と技術力が今求められているということであろう。
(湯朝 肇)





