7年ぶり税収減で「成長頼みの財政」に警鐘ならす読売社説の先走り
◆成長途上でブレーキ
7年ぶりの税収減少に、読売新聞が8日付社説で「成長頼みの財政への重い警鐘だ」(見出し)と政府に注意を喚起している。
2016年度の国の一般会計税収がこのほど、前年度比0・8兆円減の55・5兆円と7年ぶりに前年割れとなったことが明らかになった。所得税、消費税、法人税のいわゆる「基幹3税」がいずれも減少し、前年実績(56・3兆円)を下回ったのである。
このテーマで社説を掲載したのは、これまでに読売1紙だけで、何とも寂しい限りである。
さて、読売社説だが、日頃、成長重視を説いてきた同紙だけに、見出しから政府に路線の転換を強く迫るものなのかとの印象を抱いたが、内容はそれほどでもなく、見出しの先走りのようである。
同紙が強調したかったのは、「今回の税収減は、アベノミクスが目指す『成長と税収の好循環』が必ずしも盤石でないことを示したのではないか」ということのようである。
これは、しかし当然と言えば当然で、理由ははっきりしている。第2次安倍政権が発足して当初は金融、財政、成長政策の「三本の矢」政策で成長へのアクセルを吹かしている最中に、目指すデフレ脱却がまだ途上にもかかわらず、消費税増税というブレーキをかけてしまい、最近の低成長経済という半端な結果を招いてしまったからである。
これに加えて、読売が指摘する、企業の海外進出が増えたことによる税収構造の変化もあろう。「外国子会社は現地で納税するため、グループ全体が好業績でも、国内の納税額が増えるとは限らない」(同紙)からである。
◆税収増を評価すべき
ただ、この構造要因は中期的な要因である。今回の税収減の直接的な主因は、やはり、昨年初めから急速に進んだ円高とそれに伴う株安である。
同紙も「要因の一つ」と挙げる。円高は外貨で稼いだ輸出企業の儲けを円換算で目減りさせ、法人税の減収要因となる。輸入企業の場合は、円換算の支払代金が少なくなるため、納める消費税額が減少する。「16年度の消費税収のうち、輸入品にかかる分は前年度より0・5兆円減った。為替変動が消費税収に与える影響は軽視できない」との同紙の指摘は、尤(もっと)もである。
こうした点からも、7年ぶりの税収減に対し、「成長頼みの…」と言うのは言い過ぎで、むしろ、「成長重視の財政だったからこそ、7年連続で税収増が達成できた」ことを評価すべきである。
基礎的財政収支(プライマリーバランス)も、2020年度黒字化という目標達成は難しい状況だが、その実現に着実に向っているのは事実で、これも「成長重視の財政」で7年連続の税収増を実現できたからこそである。
歴史に「もしも」はないが、もしも昨年初めからの円高がなければ、7年ぶりの税収減もなかった可能性が高いわけで、今回の「成長頼みの財政」を問題にする社説もなかったかもしれない。「成長頼み」はともかく「成長重視の財政」は問題でなく評価すべきものである。
◆消費増税に慎重姿勢
今回の読売社説で評価したいのは、19年10月予定の消費税10%への引き上げについて、実施を断定せず、「可否は、景気情勢などの多角的な検討が必要だろう」と慎重な姿勢を示したことである。
読売は、「長期的な財政の健全化には、歳入、歳出の両面から地道な政策の積み上げが何より大切である」と指摘。税収の安定には、生産性の向上や「働き方改革」による潜在成長率の改善策が重要となり、「将来的な消費増税も不可避だ」と説くが、それでも、消費税増税については「ただし、…可否は…」というわけである。
消費税増税の経済への悪影響については、小欄でもたびたび言及してきた。経済の現状は、1%前後の経済成長率、それも外需頼みで内需に力強さのない状況である。
読売は、6月の日銀短観についての社説(4日付)で、「各企業が自信を取り戻し、積極的な投資で布石を打つことが、さらなる成長への原動力となる。一層の上積みを期待したい」としたが、消費税増税は、消費などの需要を委縮させ、企業のそうした投資意欲を削(そ)がせることになる。読売の慎重意見は当然である。
(床井明男)





