アジア投資銀行、「恣意的運用の恐れ」から参加慎重論を説いた小紙

◆1年半の成果乏しい

 鳴り物入りで昨年1月に開業してから1年半、韓国・済州島で開かれた中国主導の国際金融機関・アジアインフラ投資銀行(AIIB、金立群総裁)の第2回年次総会が、この17日に2日間の主要日程を終えた。総会閉幕を伝える翌日の主な記事の見出し「AIIB参加『80』に」(読売)と「日米に参加呼びかけ」(日経)、「インフラ銀、日米参加促す」(産経)が示すように、この1年半に見るべき成果は乏しかったと言えよう。

 前者のリード文は「総会ではアルゼンチンなど3か国の加盟を新たに承認し、参加メンバーは80か国・地域とな」り、メンバーが57カ国だった開業時から1年半で「23か国・地域も増えた」というもの。この数は日米主導のアジア開発銀行(ADB)の67国・地域を数字では上回る。読売記事は、金総裁の「AIIBは、インフラ(社会基盤)投資によって経済・社会の発展をもたらした」とするコメントとともに「金総裁の自賛とは裏腹に、いまだAIIBの陣容は整っていない」実態に言及している。

 後者は、AIIB参加に慎重姿勢の日米に対し、金総裁が「窓は常に開かれている」と語り、参加を促したというだけのもの。

 内容が乏しいからかAIIB年次総会について社説で取り上げたのも、日経(21日付)と小紙(18日付)だけ(昨日まで)。日経はAIIB参加について「――対応を日米で協議せよ」とやや肯定的に論じ、小紙は「中国の金融野心に与するな」と警戒を呼び掛けた。産経(17日付)は社説ではないが、田村秀男編集委員の第1面掲載「正体はインフラ模倣銀行だ」が、見出し通りに鋭いメスでAIIBの問題実態を喝破した。

◆楽観的見方に違和感

 AIIBについて日経は「これまで投融資した計16件の大半は、世銀やADBとの協調融資だ。中国政府による『一帯一路』構想と一線を画している点は評価していい。/日本政府などが示していた懸念はひとまず払拭されつつある」と協調路線を取ってきたと見る。だが、小紙は協調路線というよりは「昨年1月からの投融資は計16件、25憶ドルしかなく、しかもこのうち12件、19億ドルが協調融資だ。背景には、資本市場から低金利で資本調達するために必要な高い格付けを見込めない」からだと指摘。田村氏はさらに詳しく、日米の参加見送りで米欧の信用格付け機関が「格付けを拒否するので、AIIBはドル建て債券発行ができない。/AIIBはやむなくADBや世銀との協調融資で当座をしのぐ。5月末時点の融資額は授権資本金1千憶ドル(約11兆1千憶円)に対し21憶ドルにすぎない」「自力でドル資金を調達、融資できず、ADBや世界銀行のプロジェクトの背に乗って銀行を装っている」のだと説くのである。

 金総裁の日米への参加呼び掛けには、こうした背景を踏まえる必要がある。だが、ADBなどとの協調路線を強調する日経は「主要国でAIIBに加盟していないのは日米だけだ。中国の議決権の比率は25%を超え、重要議案で事実上の拒否権を持つ。日本が加盟すれば中国の議決権比率を下げ、内側からAIIBの正しい発展を後押ししやすくなる」と楽観的な見方を示す。中国中心の運営で「『大金を出しても、運営には口を出せない』(日本政府関係者)という状況」(読売記事)への懸念など、まるでないような主張には違和感が残る。

◆政治的な思惑を警戒

 「何よりAIIBのガバナンスには致命的欠陥がある」として小紙は、前述の拒否権に加え、AIIB本部が北京で、総裁も中国人である上に常駐の理事(各国政府代表者)による日常的な業務チェックなどが行われないことの不透明性を指摘。

 こうした方式では「中国の恣意的運用がまかり通る恐れがある。中国は総裁と本部をともに手にし、資本の3割を拠出するだけで、2国間支援に比べて3倍以上の投資効果でインフラ整備を行える魔法の杖を手にすることになりかねない」懸念を示し、政府の慎重姿勢を支持したのは同感である。

 例えば、AIIBが中東のオマーンに、計約3億ドル(約330億円)を鉄道と港湾整備向けとして融資したケースについて、読売記事は「『AIIBは中東での足場固めなど、中国の政治的な思惑に沿って使われる』(国際金融関係者)との指摘が出ている」ことを挙げ、関係者が警戒感を強めたことを伝えている。

(堀本和博)