TPP11、早期発効の頓挫で中国の台頭を招くことを警戒する産経
◆水面下の説得が奏功
離脱した米国を除く環太平洋連携協定(TPP)署名11カ国が、この21日にハノイ(ベトナム)で開いた担当閣僚会合で、協定の早期発効を目指すことで合意した声明を発表した。声明は各国の交渉官に、具体的な選択肢の検討を指示。7月に日本で首席交渉官会合を開いた上で、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに検討作業を終了して大筋合意を目指すとしている。
また、早期発効に向けた検討を進める際の4原則を盛り込んだ付属文書(未開示)が閣僚声明と併せて採択されていたことも分かった(24日付小紙=ハノイ時事)。開示されていない「TPPの前進に向けた原則」と題した付属文書は、前文で11カ国の結束の重要性を記し、その上で「高い水準とバランスの取れたTPPを維持し、協定の解体を回避する」と明記し、合意済みの貿易・投資自由化の大幅見直しを避けることを申し合わせた。さらに「TPPの機運を維持し、適宜かつ断固として行動する」ことに加え、「TPPの経済的、戦略的な意義を維持していく」ことも打ち出すなど、閣僚声明に比べ早期発効に向けて踏み込んだ表現となっているのが特徴。
国内総生産(GDP)で域内の6割を占めていた米国の離脱で、崩壊のピンチにあったTPPは日本の水面下での説得が奏功して何とか土壇場でピンチを免れ、11カ国が結束して早期発効を目指していくところに漕ぎつけたのである。
◆日本の指導力に期待
日本はTPP参加の是非をめぐって国内で激しい論議が起こったが、今はその先進的意義を高く評価することにおいて各紙に際立った違いはない。
読売(22日・社説)が「米国を中心とする保護主義の台頭に対抗し、世界の自由貿易体制を守る。高い水準の貿易・投資ルールを定め、他の経済連携協定でも質の向上を促す」と意義を認めれば、日経(23日・社説)は「TPPは高水準の貿易・投資ルールであり、米国が離脱しても意義は大きい」と強調する。以下、「関税撤廃のみならず、国有企業や知的財産などの幅広いルールで合意し、通商協定の国際標準となり得る経済秩序とした」(産経・主張23日)、「21世紀型の新たな通商ルールを目指して、その先頭を走ってきたのがTPPだ」(朝日・社説23日)と、いずれも高く評価するのは通商・貿易立国のわが国にとって、それが生命線でもあるからだ。
それだけに、閣僚会合の声明についての評価も「各国の思惑が微妙に異なる中、ひとまず結束できた点は評価できる」(日経)、「高度の先進性を備えたTPPを無にすることがないよう意思統一を図ったのは前進」(産経)、「発効を目指すことで11カ国がまとまったことは評価できる」(朝日)と各紙の間に大きな違いがあるわけではない。「11か国が協定実現への意欲を共有できたのは一定の成果だ」とした読売が「11か国でTPPの着実な推進が、日本の通商戦略上も極めて重要」だと強調しているのが目立つぐらいだ。
とはいえ、各国には思惑や個別の事情があり、まだ今後の道筋が見えているわけではない。そこで期待されるのが日本の指導力である。「日本の指導力が今ほど問われる局面はあるまい」(産経)というわけで、「日本こそ指導力を発揮し、発効の道筋をできるだけ早く整えなければならない」(日経)、「経済規模が突出する日本のリーダーシップの発揮」で「米国をTPP体制に引き戻す努力」(読売)などを求めているのも、ほぼ共通した各紙の論調である。
◆ほぼ一致した産と朝
注目されるのは、TPPの早期発効が頓挫した場合にまで踏み込んで論じた産経である。
「頓挫すれば、TPPを『自国包囲網』として警戒してきた中国の存在感が一段と高まろう。高度な自由化に目をつむり、新興国を取り込んで中国経済圏を広げないか。その影響は経済にとどまるまい」と警告。これについては朝日も、この地域では「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の議論も進む。日本が高いレベルでの自由化を目指しているのに対し、中国は緩めのルールで新興国や途上国を取り込む動きを強める」として「この地域で水準の高い自由化を実現していくためにも、先導役としてTPPの旗を掲げ続けることが欠かせない」と強調して論を結んでいる。
産経と朝日。両紙の論調は激突することが少なくないが、今回のテーマではほぼ一致している数少ないケースとなった。
(堀本和博)