トランプ氏批判に終始し、テロ殲滅への方策示さないNYタイムズ紙

◆初の訪問国はサウジ

 米国のトランプ大統領は就任後最初の訪問国に、中東のサウジアラビアを選んだ。オバマ前大統領が就任早々、エジプトを訪問したことを考えれば、米国の中東重視の姿勢が見えてくるが、両氏が目指すものは大きく異なる。

 トランプ批判を続けてきた米紙ニューヨーク・タイムズは早速、「トランプ大統領の中東の矛盾」と批判を展開した。

 トランプ大統領のサウジ訪問の主眼は、対イラン包囲網の強化と貿易、投資の拡大にあったようだ。イランはレバノン、イエメンなどの武装組織、シリアのアサド政権を支援しており、中東の不安定化の大きな要因となっている。

 イランの核武装を阻止し、テロの撲滅を訴えてきたトランプ氏にとってイラン封じ込め強化は当然であろうし、「米国第一」を政策の中心に据え、国内の雇用拡大を目指す上で、輸出の拡大は欠かせない。

 ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏が選挙戦中からイスラム教に否定的な発言を繰り返してきたことを挙げて、「何カ月間も侮辱してきたイスラム世界との関係修復に躍起だ」とトランプ氏の変貌ぶりを皮肉交じりに伝えている。

 一方でサウジとの関係改善については、「必要であり、遅過ぎた」と一定の評価をした。トランプ氏が訴えてきた過激派組織「イスラム国」(IS)などテロ組織の殲滅(せんめつ)には、イスラム教国家の協力が欠かせないからだ。

◆「態度を一変」と主張

 また人権問題に触れなかったことにも厳しく批判している。メッカ、メジナの二大聖地を擁するサウジは、イスラム教の盟主ともいうべき存在だが、戒律の厳格なワッハービズムに基づくイスラム法を取り入れており、女性の権利などが厳しく制限されている。

 ニューヨーク・タイムズは「かつて『イスラムは私を嫌っている』と言っていた人物が、イスラムは『世界の偉大な宗教の一つ』と述べた」とテロとの戦いと経済協力のためにトランプ氏は態度を一変させたと主張する。

 また、「過激主義にどのようにして勝利するのかについての指針は示さなかった」と指摘。サウジ王室の正当性を裏付けるワッハービズムが、「イスラム国などほとんどの過激組織を鼓舞した」として、トランプ氏のテロ対策でのサウジとの協力姿勢は矛盾していると訴えた。

 一方で、オバマ前大統領が指摘してきた、イスラム教国家内の改革について触れていないことも非難の的になった。国民が政治に参加できるよう「経済、政治制度を改革しなければ、イスラム教国は過激主義を一掃するのは難しい」からだ。

 中東を席巻した「アラブの春」は、長期独裁政権で封じ込められてきた国民の不満が噴出した結果であり、民主化、改革へのうねりとなった。そのうねりは、ペルシャ湾岸の君主国にはあまり波及していない。

◆イラン敵視に否定的

 イラン敵視についても、「政治的標的にしやすい」と否定的だ。同紙は「スンニ派国家と連携して、イランを孤立させるトランプ氏の決意は、軍事衝突につながる可能性がある」「核合意を放棄すれば、欧州同盟国との関係を悪化させる」と結論付けている。

 人権問題、イスラム教国内の政治上の問題などを指摘するニューヨーク・タイムズだが、トランプ氏が政策の優先課題として挙げた「テロとの戦い」の方策については全く触れておらず、批判のための批判の感はぬぐえない。

 イランが地域内での覇権拡大を目指していることに疑いの余地はない。そのために核開発を目指し、運搬手段としての弾道ミサイルの開発を進めている。そのイランを封じ込めるための方策を講じることは西側諸国、アラブ国家にとって喫緊の課題だ。

 ジョージ・W・ブッシュ政権で国防長官を務めたドナルド・ラムズフェルド氏は、FOXニュースで、「トランプ氏がサウジでしたことは、私は全く正しいことだと思う」と、イスラム教国家約50カ国を前に、テロ殲滅での連携を訴えた演説を高く評価した。

 「(トランプ氏は)目標は、若者らを殺人に向かわせることではなく、生きて、社会の一員とすることだとイスラム教国家の指導者らに伝えようとした」とラムズフェルド氏は指摘した。イスラム教が社会、生活に根差したアラブ諸国などイスラム教国家と、西側諸国が共存していくには対話と連携が必要なのは言うまでもない。

(本田隆文)