自衛隊に焦点を当て、中国の思惑について的を射た分析をした東洋経済

◆参考になる中印戦争

 緊迫化する東アジア情勢の中で自衛隊の役割はいやが上にも高まっている。尖閣諸島への中国艦船・中国機による領海・領空侵犯、あるいは北朝鮮の弾道ミサイル発射実験、ロシア機の領空侵犯など陸海空自衛隊は24時間体制で監視を続ける。もちろん、自衛隊への評価は防衛のみに限らず、今や自然災害等への人命救助、救援活動には不可欠な存在となっていることは言うまでもない。

 ある自衛隊幹部の一人は、「今や自衛隊は国民に頼られる存在になった。これからは真の意味で信頼される自衛隊になる必要がある」と言っていたが、この言葉はかつて自衛隊員が国民から“白い目で見られる”と感じた期間が長かったことに対して述懐を込めて表現したのであろう。

 そうした中で、東洋経済は5月13日号で自衛隊を特集した。「自衛隊のカネと組織」。見出しの通り内容は、現在23万人の隊員を要する自衛隊の組織と予算。さらに背広組と制服組の実情や防衛産業について述べているが、ここで目を引くのが日本の対中関係の捉え方そして北朝鮮への見方。特に、日本大学危機管理学部の川中敬一教授が対中国論で的を射た理論を展開している。

 現在、日中は尖閣諸島をめぐって緊張関係にあるが、日本と中国の安全保障関係を見る時に、1962年10月から1カ月間に中国とインドの間で大規模な武力衝突となった中印戦争を参考にすべきだと同教授は指摘する。「中国の意図を理解せず、ネルー政権(当時)は武力行使を開始した。だが、結果的に軽率で無謀な軍事・政治的判断から大きな代償を払うことになった」と説明。同教授が語るには、「ネルーの思想のみならず自国軍事力と国家体制への根拠なき過信、そして中国側の意思と軍事力への不適切な過小評価による。特に、政治指導層と高級軍人の情報認識と作戦指導にかかわる能力の拙劣さが直接的敗因」と分析。インドの二の舞いになってはならないと警鐘を鳴らす。その上で、現代中国の思惑を「中華天下恢復に収斂する」と断言する。

◆着々と進出範囲拡大

 19世紀半ば以降、中国は欧米列強や日本によって自国領土を簒奪(さんだつ)された。その屈辱を晴らし領土を取り戻すことを一つの命題として動いているというわけだが、川中教授は、「中国の軍事戦略の原則は『積極防衛』であり、これは揺らぐことがない。…中国の軍事力は、(米国の侵攻が現実化した場合)、同海域(東シナ海と北西太平洋)ではいわゆる第一列島線を突破して日本南方海域へ展開し、米部隊の侵攻を遅らせることを企図する。その間に国家的意思決定システムを疎開するなど、持久戦態勢に移行する。この戦略は、21世紀中葉をめどに兵器整備計画に従って具現化されようとしていることに注目すべきだ」と強調。中国は自らの戦略によって着々と進出の範囲を広げているというのである。

 その一方で同教授は、「戦争は全国家的行為である。だが、その国家に戦争を貫徹する覚悟も展望もない。…自衛隊は組織の自己増殖と生き残りに余念がなく…。また、国民も経済界もすべての営みの前提となる国家的生存保障、つまり国防の当事者としての意識が欠落しているのも、もう一つの実像である。このような社会状況である日本が、確固たる理念に衝動される中国と対決姿勢を示すには、よほどの自己変革に加え、相手の意図を等身大で理解することが不可欠だ。さもなければ、かつてのインドよりもより屈辱的な結果を招くことになる」と政府のみならず国民にも覚悟を求め、さらに「かつてインドは『米、英、ソ連、国際世論が味方である』と幻想した。しかし、誰も助けてはくれなかったことを忘れてはなるまい」と歴史の教訓から学ぶことの重要性を訴える。

◆的外れな野党の主張

 折しも、5月3日の憲法記念日に安倍首相は、憲法改正案の構想について、現行憲法第9条に1項、2項を残した上で3項として自衛隊の存在を追加すべきだと提起した。これについて23日、河野克彦統合幕僚長は記者会見で、個人的な見解とした上で「自衛隊の根拠規定が憲法に明記されることであれば非常にありがたい」と述べた。

 これに対して民進党や共産党などは、自衛隊の最高指揮官が政治的発言をするのは自衛隊法に抵触すると抗議しているが、国防という視点から見れば何というレベルの低さ。日本国で実際に起きている実情をしっかりと見詰め、きちんと分析していくならば、民進党や共産党の主張がいかに的外れであるかということが分かってくる。

(湯朝 肇)