短観結果に「好循環へ企業は縮むな」と叱咤する日経に欠ける説得力

◆先行きは軒並み悪化

 「景気好循環へ企業は縮むな」――。日銀が3日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)について、日経が4日付で論評した社説の見出しである。

 3月の日銀短観は、足元の景況感は大企業製造業で2四半期連続で改善し、同非製造業や中小企業でも好転しているが、3カ月後の先行きは大企業、中小企業の製造業、非製造業とも軒並み悪化を見込んでいる。

 日経が「縮むな」と叱咤(しった)するのは、雇用が回復して、賃金が上がり、消費が増えて、さらに企業収益が拡大するという「好循環をもたらすには民間企業のがんばりが欠かせない」からである。

 もちろん、この理屈は企業も分かっていよう。だからこそ、春闘などでは多くの企業が4年連続でベースアップを含む賃上げに取り組んでいるわけである。

 ではなぜ企業は、日経が「縮こまりすぎる」と批判するほど、先行きの不安が消えず慎重なのか。

 日経が「最大の不安」として挙げたのは、保護主義的な政策に傾くトランプ米政権の政策やそれに伴う為替相場の変動など海外要因である。

 しかし、これには企業は対しようがない。政府の出番である。だから、日経も今月に予定している日米経済対話などを通じて、政府は「米国に世界経済や市場に動揺をもたらしかねない極端な政策をとらないようクギをさすべきだ」と求めるのだが、問題はそれをどこまで実現できるかである。

◆経営者の心に響かず

 しかも、海外要因は米国のいわゆる「トランプリスク」だけではない。本紙5日付社説が指摘するように、欧州各国が迎える国政選挙での政治リスクや、北朝鮮などアジアでの地政学的リスクもある。これらのリスクに対して、政府は何ができるかということを想像すれば、経済合理性で行動する企業の慎重な姿勢も頷(うなず)ける。

 逆に言えば、日経の叱咤は企業経営者の心にはあまり響かない、今一つ説得力に乏しい内容と言えようか。

 もちろん、同紙が企業の不安材料の「もう1つ」として掲げた「深刻な人手不足」について、それに対応した雇用市場改革や、規制緩和など構造改革を通じた政府の成長戦略も欠かせないとの指摘は大事なことである。

 読売も4日付社説で論評を掲載したが、見出しは「人手不足リスクに注意したい」で、「リスクに対処しつつ成長力をどう強化するか。企業経営者の手腕が問われる」というのが趣旨。企業が守りの姿勢を続ければ、縮小再生産に陥り、日本経済はいつまでも浮上しない。だから、「新たな需要創出に知恵を絞り、挑戦を続けることで活路を開きたい」というわけである。

 具体的には、「企業は賃上げなどの処遇改善を継続するとともに、省力化投資などで生産性を高める必要がある」「能力向上のための職業訓練を、官民で充実させることも大事だ」などと強調したが、尤(もっと)もな指摘である。

 同紙はトランプリスクに対して、「軽減へ、政府は力を尽くさねばならない」として、日経同様、日米経済対話などの機会に、米側に自由貿易の重要性を丁寧に説き、企業の不安払拭(ふっしょく)に努めるべきだとしたが、前述の通り、限界もあろう。

◆政府の役割も不可欠

 それにしても、企業の慎重姿勢は深刻である。読売と本紙が言及したが、大企業(全産業)の2016年度の設備投資計画は前年度比1・4%増と、前回の5・5%増から減速(読売指摘)。17年度のそれは同0・6%増とほぼ横ばい状態で、「極めて低調で積極性が見られない」(本紙)のである。

 読売は今回の短観で、昨年からの円安・株高などを背景に、輸出関連業種を中心に(業況判断)指数が上向き、また非製造業も宿泊・飲食や個人向けサービス業などで改善が目立ったとして、「景気回復の裾野が広がってきたのは心強い」と強調したが、問題はこれをいつまで継続できるかである。

 この点では、本紙が「事業環境の好転が長くは続かず、一過性で終わるのではないかという不安が拭えない」ことを指摘したが、それだけに、景気の下支えとなる政府の役割も欠かせないということである。

(床井明男)