3月日銀短観、先行き悪化への懸念は強い
日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、景況感が輸出企業を中心に2四半期連続で改善した。海外経済の回復や円安の進行が追い風となったためである。
しかし、企業は先行きの悪化を見込む。内需も相変わらず力強さが見られず、経済界には事業環境の好転が一過性に終わることへの懸念も強い。経済対策など予算の着実な執行で景気を下支えしたい。
景況感が2期連続改善
企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業製造業がプラス12と、昨年12月の前回調査を2ポイント上回った。全16業種のうち12業種が改善、特に自動車(8ポイント)や汎用機械(11ポイント)が大きく改善した。
大企業非製造業も2ポイント改善のプラス20と、6四半期(1年半)ぶりに前回調査を上回った。昨年11月の米大統領選後に進んだ株高、いわゆる「トランプ相場」や、訪日外国人旅行者(インバウンド)の消費が寄与したためである。
現状は良しとしても、問題は先行きである。3カ月後の見通しは、大企業の製造業、非製造業、また中小企業の製造業、非製造業と規模、業種を問わず、そろって悪化を見込む。今回改善幅が大きかった自動車は、9ポイント悪化と厳しい観測だ。
最大の不安要因は為替相場である。トランプ米大統領の今後の政権運営によっては、経済政策への期待から進んだ円安・株高の流れにブレーキが掛かる可能性があり、既に株式市場ではその終焉(しゅうえん)も囁(ささや)かれる。
米国だけではない。欧州では仏大統領選挙などの国政選挙が相次ぎ、極右勢力などが勝利すれば、政治リスクの高まりから、安全資産とされる円に上昇圧力が掛かりかねない。北朝鮮などアジアでの地政学リスクも懸念材料である。
要は今回、景況感を改善させた海外経済要因や円安の進行という事業環境の好転が長くは続かず、一過性で終わるのではないかとの不安が拭えないということである。
これに加え、心配されるのは最近の人手不足である。運送業界では人手不足から長時間労働が常態化して社会問題に発展。外食産業ではこれまでの24時間営業を中止するなど、サービスを見直す例も出ている。
2月の完全失業率は2・8%と22年8カ月ぶりの低水準で、短観の雇用人員判断DIでも全規模全産業でマイナス25と、約25年ぶりの深刻な人手不足感が示された。景況感そのものは総じて高い水準を維持しているが、労働力確保の厳しさから賃金上昇などが景況感の重しとなる懸念も出ているのである。
こうした状況を背景に、また内需が相変わらず力強さを欠いていることもあり、大企業全産業の2017年度設備投資計画は、前年度比0・6%増とほとんど横ばい状態。極めて低調で積極性が見られない。
予算の着実な執行を
為替相場が現在、円高方向に動いていることも、企業の景況感を悪化させる要因である。雇用のミスマッチ解消に向けた努力とともに、景気の下支えとして経済対策など予算の着実な執行を図りたい。