民営化30年で明暗分けるJR7社の現状を特集したダイヤモンド
◆詳細な分析せず分割
かつて鉄道は「国を支える大きな要」であった。18世紀、英国は産業革命を成功させ、それ以降の世界を牽引(けんいん)しパックス・ブリタニカとして君臨していくが、それを実現させたのは、他ならぬ英国が他国に先駆けて積極的に推し進めた鉄道建設によるものであった。鉄道網の整備拡大は原材料や工業製品の運搬のみならず、市場開拓や資本輸出に対しても大きな力となった。それは近代化を進めた日本においても例外ではなく、とりわけ明治以降、原野を開拓し石炭などの鉱産物や農産物といった原材料を供給する北海道にとって鉄路は生命線だった。その北海道の鉄道が今、存続の岐路に立たされている。
さて週刊ダイヤモンドは3月25日号で鉄道、すなわちJRについて特集を組んだ。テーマは「国鉄 vs JR」。副題は「民営化30年の功罪」となっている。赤字路線を拡大し続けた国鉄が1987年に7社に分割民営化されて以後、上場企業として明るい未来絵図を描ける会社もあれば、JR北海道のように大幅な路線廃止を余儀なくされ、今後も存続ができるのかどうかという瀬戸際に立たされている会社もある。果たして、その両者にはどこに違いがあったのか、それを分析・提言したのが同号の特集である。
今から30年前の87年4月、それまでの日本国有鉄道(JNL、通称・国鉄)が分割民営化された。国鉄は労働組合の力が強く頻繁にストライキを起こすなど労働争議を繰り返していた。その一方で収支は赤字が続き、政府の事業体の中で“お荷物”になっていた。その国鉄を民営化させたのが、当時の中曽根康弘内閣だったのだが、ある意味で国鉄の分割民営化は避けられない状況にあった。ただ分割化されるといっても、それぞれのJR各社の収益見通しなどに対して、詳細な分析・予測をすることもなく、半ば闇雲にスタートしてしまったのである。
◆北海道は「死に体」化
そして30年たった今、JR各社を見ると現状、将来的展望に対して明暗がはっきりと分かれてしまっている。ダイヤモンド誌は、次のようにつづる。「1987年、負債37兆円を抱えて日本国有鉄道は崩壊した。代わって誕生したJR7社は自律的な経営へ転じ、利益追求主義へとかじを切った。それから30年。7社の明暗はくっきりと分かれ負け組企業には存続の危機が迫る。分割民営化の『ひずみ』が今、浮き彫りになっている」。
ここで言う、負け組企業とはJR北海道とJR四国のことである。JRの盤石会社として定着している東日本、東海、西日本に対して、北海道と四国はまさに「青息吐息」の状態。とりわけ、JR北海道に至っては昨年11月に道内の10路線13区間の廃止を提案。これらの路線距離の合計は営業路線全体の半分に相当するが、「自治体からの支援がなければJR北海道単独での(同路線の)存続は無理」とギブアップ宣言を発してしまった。昨年3月26日に、新青森-新函館北斗間で北海道新幹線が開通し、2030年には新幹線の札幌延伸が約束されているものの、道内鉄道交通網の整備という観点からは「死に体」化しつつあるのである。
◆国挙げて取り組みを
JR北海道が疲弊化していった原因は、直接的には輸送密度の低下があるが、その要因となったのは高速道路網の整備が進んだことが挙げられる。今や北海道では、クルマが一家に2台、3台というのは珍しくない。クルマを利用する道民が増えた分、鉄道の乗客数は減少した。さらにもう一つの原因は、北海道の厳しい自然環境である。本州に比べて過酷な気象条件の下で列車を走らせるのは、それだけでコスト増につながる。今後、人口減少が進んでいけば、JR北海道の経営はさらに厳しいものになっていくのは必至。そうした中で、ダイヤモンド誌は、JR北海道とJR四国に対して「JR北海道は大量出血している急病人、JR四国は慢性病患者」と例えるが、その解決策の一例として、「(民営分割化)当時は、JR7社が公平になるよう『基金』と『負債』という形で資産分割したはず、…巨額の利益を稼ぐようになった本州3社が、例えばJR基金を創設するなど、相応の負担をしていくべきではないだろうか」と提案する。
高速道路網が整備されたとしても、高速大量輸送あるいは地域住民のライフラインの確保という視点からも鉄路の存続は必須。もちろん、JR北海道やJR四国の自助努力は不可欠だが、この2社についてはJR全体あるいは国全体の問題として取り組むべきものと考える。
(湯朝 肇)