英ロンドン・テロで反移民の右派勢力台頭に警鐘を鳴らす英紙
◆高まる反移民感情
ロンドンの国会議事堂近くで自動車を使ったテロが起き、3人が死亡した。フランス、ベルギーなどで過激派イスラム教徒らによる大規模なテロが繰り返し起こされてきたが、英国では近年、大規模なテロは起きておらず、世界に衝撃を呼んだ。
英紙インディペンデントは、社説「ウェストミンスター・テロは民主主義の最も純粋な象徴への攻撃」で、「あらゆる形の過激主義に対抗すべきだ」と訴えた。
事件直後に射殺された実行犯は、移民が多く住む、英中部のバーミンガムに住んでいたことがあり、そこでイスラム過激主義の影響を受けたのではないかとみられている。
同紙は、「このところ、宗教的、民族的分断をあおる主張が世界で強まっている」と、テロへの政治の及ぼす影響に懸念を表明した。
そこには、欧州で、右派勢力などによる反移民感情の高まり、米トランプ政権による一部の中東諸国からの入国禁止措置の影響もあるとみているようだ。
「憎しみはテロを引き起こすが、これが政治的潮流になりつつある。この恐怖がそのためのさらなる言い訳の正当化に使われるのを許してはならない」と、移民に反対する右派勢力の台頭に警告を発している。
◆少数派との融和訴え
英紙ガーディアンも同様に、ロンドンでのテロを受けて反移民勢力の台頭に警鐘を鳴らした。
同紙は、反移民、反欧州連合(EU)で知られる右派政党「英独立党(UKIP)」の元党首ナイジェル・ファラージ氏と党首ポール・ナタル氏を「事実を完全に無視し、英国内のイスラム教徒と非イスラム教徒の間にくさびを打ち込む、根拠のない、恥ずべき主張を繰り返した」と強く非難した。
同紙によるとファラージ氏は、事件の数時間後には米国のテレビで、移民政策と今回のテロとを結び付ける発言をしたという。
テロは、伝統的に移民を受け入れ、今も中東、アフリカからの移民問題に悩む欧州にとって非常に難しい問題だ。反移民勢力は勢いづき、治安当局は少数派、移民への警戒を強める。それによって、最終的に少数派への反発、憎しみを招くことになれば、逆にテロの誘因にもなり得る。
欧州社会では、移民コミュニティーとの融和によって、テロなど憎悪に基づく犯罪を抑制しようという動きが優勢のようだ。フランス・パリで起きた風刺紙「シャルリ・エブド」襲撃事件後の仏国民の対応がまさにそれだった。
ガーディアン紙は、事件の犯人は、英国生まれで、警察などもマークしておらず、「イスラム国」(IS)など過激派組織とのつながりもそれほどなかったのではないかとみられていることを指摘した上で、このようなテロを察知し、抑止するには「監視ではなく、関与を強化することだ」と少数派の社会との融合の重要性を指摘した。
◆イスラム化懸念も
その一方で、欧州はイスラム過激派と戦うべきだと訴える声もある。
イタリア人ジャーナリスト、ジュリオ・メオッティ氏は、イスラエルのニュースサイト「アルッツ・シェバ」への寄稿で、イスラム過激派との戦いを訴えている。
メオッティ氏は「世俗化と無関心が、欧州が何世紀にもわたって築き上げてきたものを破壊している」と、強まるイスラム過激主義に対して欧州社会は「真剣に向き合っていない」と警鐘を鳴らしている。
また「イスラム過激派は目的の達成に取り組んでいる。欧州民主主義を、シャリア(イスラム法)による統治、カフェ、食品のハラル(イスラム教で「合法」の意味)、衣類などで計画通りに欧州の民主主義を変革させている」と、欧州社会のイスラム化に警戒心を表明している。
それには、減少する欧州の人口に対して、北アフリカなどのイスラム教徒が多数住む地域で人口が爆発的に増加しており、過激思想を抱いたイスラム教がいずれ「欧州に向かい」「平和的な占領」が行われるとの懸念がある。
移民を受け入れ、融和していくことで、欧州の発展を目指していくべきなのか、移民を制限することで従来の「ユダヤ・キリスト」の価値観を基礎とする社会を守るべきなのか、グローバル化の波の中で、欧州全体が揺れている。
(本田隆文)





