香港行政長官選、国際公約に立ち戻り、自由な直接投票を求めた産経
◆中国の露骨な後押し
「私の第一の仕事は亀裂を修復し、社会の団結を図ることだ」。
この26日に投開票された香港行政長官選挙は前政務官(閣僚)の林鄭月娥氏(59)が、前財務官(同)の曽俊華氏(65)ら2人を破って当選した。林鄭氏は当選後の記者会見で冒頭のように強調し、親中国派と民主派に分断される社会の融和を最優先課題に挙げ、就任までに政治的立場の違う人々と積極的に対話を進める考えを示した。林鄭氏は7月1日に香港で女性初の第4代長官に就任する。任期は5年。
選挙は旧来の、親中派が約4分の3を占める職能団体代表らの「選挙委員会」による間接選挙で行われたため、民意が反映せず中国の意向に左右されるものとなった。中国政府による露骨な後押し介入により林鄭氏は選挙委の定数1200人のうち過半数となる777票を得た。曽氏は365票だったが、一般市民の支持はその逆。香港大学による直近の世論調査では林鄭氏の支持率が29%と低迷したのに対し、曽氏は56%と倍近くリードしたのである。
選挙を事実上、2人で争った林鄭氏と曽氏。どちらも親中派の元政府高官で、基本政策に大きな違いがあるわけではない。在職当時の仕事ぶりについても、市民の評価は共に高かった。それで、支持率に大差がついたのは、中国の露骨な林鄭氏支持が、「一国二制度」による「高度な自治」を保障した香港への選挙干渉と嫌われたことが大きい。
◆各紙とも厳しい評価
今回の長官選挙をめぐっては、間接選挙ではなく有権者「1人1票」の普通選挙を実現する約束だった。それが、習近平政権下の2014年8月に示された新制度案は、民主派の立候補を事実上排除する内容だった。これに猛反発した若者や市民らは民主化による「真の普通選挙を」を求めて中心部の道路を占拠した「雨傘運動」を繰り広げ、騒動は年末まで続いた。このとき香港政府代表として学生代表と対話したのが林鄭氏で、1歩も譲らず押し通したことが今回の中国の後押しにつながったとみられる。が、その分、香港での人気低迷にあえぐことになったのである。
新制度案は結局、翌15年6月に立法会(議会)で否決され、白紙に戻った。結果、旧来の民意とかけ離れた今回の選挙となったのである。
香港行政長官選挙について社説を掲げたのは読売(27日)、朝日(28日)、日経(同)、産経(同)の4紙(29日現在)である。
産経が「香港には異なる政治制度の併存を認めた『一国二制度』の下で、『高度の自治』が保障されたはずだが、選挙結果は民意を反映したとは到底言い難い」と論じた選挙結果については、各紙とも厳しい評価である。「『一国二制度』の下に認められた香港の『高度の自治』の形骸化が一段と進んだと言えよう」(読売)、「世論調査では民主派も推す曽俊華氏の支持率が高かっただけに、民意とのずれが浮き彫りになった」(日経)。朝日までが「市民に不人気な候補者が大差で当選する。香港政府のトップである行政長官の選挙は、そんなねじれた結果になった」と言い、問題点はずばり民意を反映しない「選挙制度にある」と突く。そして、20年前に中国が約束した「一国二制度」の下での高度な自治が「現状では、その原則が守られているとは言いがたい」と断じている。
◆「一国二制度」は画餅
産経は前記からさらに踏み込んで、香港側に林鄭氏支持を伝えた中国側の発言などを捉えて「北京発の要人発言は、『一国二制度』を公然と捨て去るに等しいものだ」、台湾との統一を念頭に置いた「一国二制度」の構想は「香港の現状を見れば、これが画餅にすぎなかったことは明白」と斬り込んだのだ。同感で、教訓としなければならない。
では、香港の統治の正常化への処方箋はあるのか。
各紙の主張はほぼ一致している。産経は「『高度自治』を認めた国際公約に立ち戻り、自由な直接投票を実施するしか方法はない」と迫る。以下、読売は「新長官には、完全な『普通選挙』の導入に向けた努力が求められる。民主派の立候補も排除しない仕組みが重要だ」と説く。日経は「処方箋のひとつは3年前に頓挫した普通選挙導入の再提起だろう」、朝日は「立候補段階から市民に開かれた、真の普通選挙が必要だ」と、トーンは少しずつ弱まるものの、いずれも普通選挙の実施を求めているのである。 産経は前記からさらに踏み込んで、香港側に林鄭氏支持を伝えた中国側の発言などを捉えて「北京発の要人発言は、『一国二制度』を公然と捨て去るに等しいものだ」、台湾との統一を念頭に置いた「一国二制度」の構想は「香港の現状を見れば、これが画餅にすぎなかったことは明白」と斬り込んだのだ。同感で、教訓としなければならない。
では、香港の統治の正常化への処方箋はあるのか。
各紙の主張はほぼ一致している。産経は「『高度自治』を認めた国際公約に立ち戻り、自由な直接投票を実施するしか方法はない」と迫る。以下、読売は「新長官には、完全な『普通選挙』の導入に向けた努力が求められる。民主派の立候補も排除しない仕組みが重要だ」と説く。日経は「処方箋のひとつは3年前に頓挫した普通選挙導入の再提起だろう」、朝日は「立候補段階から市民に開かれた、真の普通選挙が必要だ」と、トーンは少しずつ弱まるものの、いずれも普通選挙の実施を求めているのである。
(堀本和博)





