英のEU離脱、理念先行の統合が曲がり角に


 英国が欧州連合(EU)からの離脱を正式にEU側に通告した。2019年3月末の離脱を目指して始まる交渉は、前例のない困難さが予想される。その影響は、世界経済だけでなく、多方面に及ぶものとみられる。

移民の制限を最優先

 英国のメイ首相は「歴史的瞬間であり、後戻りできない」と語った。また「英国はEUを去るが欧州を去るわけではない」とし、EUとの間で「新しく深い特別な関係」を目指すとも述べた。

 英政府は、自由貿易協定(FTA)の締結交渉を離脱協議と並行させて行うことを求めたが、EU側は英国が拠出を約束した分担金の協議を優先させるとしており、交渉の入り口から難航している。

 英国としては、離脱の負の影響を最小限にとどめ、EUの単一市場とできるだけ有利な関係を結びたいところだ。しかしEU側は、加盟国の離脱ドミノを防ぐため、英国に対して甘い態度を示すことはできない。

 EUの単一市場は、人、モノ、資本、サービスの「四つの自由」を実現した。しかし、英国がEU離脱を決めた背景には、域内の人の移動の自由によって東欧などから移民が増加し、雇用だけでなく英国固有の伝統や社会が脅かされているという危機感があった。また、さまざまな国内の施策をEUの基準に合わせなければならない不自由さへの不満も小さくなかった。

 メイ首相は今年1月、EU単一市場から脱退する「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」方針を発表した。これも移民の制限を最優先するためだ。

 英国の離脱決定、そして「米国第一」を掲げたトランプ米大統領の登場の影響もあって、EU内ではEU離脱を掲げる勢力が勢いを増している。中でも4~5月に行われるフランス大統領選挙では、離脱を訴える右派候補が当選する可能性がある。万一フランスが離脱すれば、独仏枢軸が牽引(けんいん)してきた欧州統合は挫折し、EUは崩壊の危機に直面しかねない。

 EUが崩壊すれば、その影響は世界の経済にとどまらず安全保障にも及ぶ。さらに、排他的な自国第一主義に対する抑制の利かない世界の出現を招きかねない。さまざま問題を抱えるにしても、統合の成果を水泡に帰すわけにはいかない。

 そのためにもEU加盟国、特にブリュッセルのEU本部は、これまでの理念先行の統合が曲がり角に来ていることを認識し、その進め方を再考すべきである。加盟国の結束のほころびは、ギリシャの債務危機、さらに難民問題などで浮き彫りとなったが、基本的には、あまりにも理想主義的な理念先行の加盟国拡大で、さまざまな矛盾が表面化したとみることができる。

官僚組織の肥大化も問題

 EUが膨大な数の官僚を抱える組織となってしまったのも問題だ。自由主義的なアングロサクソンの目から見れば、不必要な巨大化であり、その予算は加盟国民の税金で賄われる。

 経験主義的で、理念よりは現実への対応を重視する国柄、国民性の英国がEUから離脱するというのは、そういう面で象徴的である。