4年目「官製春闘」に経済「好循環つくれぬ」と厳しい政府批判の日経

◆責任を政府に求める

 2017年春闘における自動車、電機など主要企業の賃上げ回答が出そろった。基本給を底上げするベースアップ(ベア)は4年連続で実施となったが、上げ幅は多くの企業で前年割れとなった。

 昨日までに社説で論評を掲載したのは4紙。掲載順に見出しを列挙すると、次の通りである。16日付産経「春闘一斉回答/消費回復へ賃上げ継続を」、東京「春闘の役割/世論のうねり逃さずに」、20日付読売「春闘集中回答/労使で働き方改革を進めたい」、日経「好循環つくれぬ『官製春闘』」――。

 同じテーマだが論評の内容は、産経と読売は企業の労使に対する要望、東京は労組(特に連合)への期待、日経は政府への批判という形で違いを見せた。

 特に、予想以上に論調が厳しかったのが、日経である。

 日経社説の冒頭は、「賃金の伸びをテコに経済を活性化させようという政府のもくろみが、腰折れしかねない状況といえよう」である。

 政府は、賃金が上がって消費が伸び、企業収益が拡大してそれがまた賃金を増やすという「経済の好循環」を描き、だからこそ、これまで4年間、労使間の春闘に介入し「官製春闘」を演出してきた。

 しかし、その結果は先述したように、主要企業の多くで昨春に続きベアが前年を下回り、見出しの通り、「好循環つくれぬ『官製春闘』」になってしまった。

 この結果について、日経は「経営者が積極的な賃上げを継続できる環境が、整っていないことの表れともいえる」として、その責任を企業の労使にではなく、「規制改革など政府は企業活動を活発にする政策に力を入れるべきだ」と政府に求めた。経済の好循環「実現のため、政府はやるべきことをやってほしい」と言うわけである。

◆攻めの姿勢を求める

 確かに同紙の指摘は一理あるものの、全てが政府の責任というには無理があろう。同紙も指摘するように、ベア前年割れの背景には、米トランプ政権の発足や英国の欧州連合(EU)離脱決定などで、世界経済が不透明さを増していると経営者が受け止めていることがある。そんな状況では、いくら規制改革が進んだとしても、海外市場との関係が浅くない主要企業の経営者としてはやはり慎重にならざるを得ないであろう。

 それでも、「企業の後押しこそ、政府の役割」(同紙)として、政府に求めるのであれば、経済を痛めて内需を激減させ、企業の事業環境を悪化させた消費税増税こそ、第一義的に批判すべきであろう(尤(もっと)も、そうなれば、消費税増税を支持し、その実施を強く求めた同紙も、責任の一端は免れないが)。

 産経、読売は、日経のような政府批判はない。社説見出しの通り、産経は経済の好循環を実現するためには継続的な賃上げが欠かせないとし、「優秀な人材を獲得するための賃上げを含め、将来に向けて企業は、もっと攻めの姿勢をみせてほしい」と要望する。

 読売も産経と同様、「企業の業種や規模を問わず、賃上げの継続が、家計の所得環境を改善するのに不可欠な条件だ」と指摘。さらに同紙は「労使が協力して働き方を改革する取り組みが広がったのが、今春闘の特徴」「労使が賃上げだけでなく、雇用慣行の見直しに取り組む意義は大きい」と強調するのである。

 働きやすい環境を整え従業員の意欲と能力が高まれば、生産性の向上が期待でき、それが、企業の収益力を高め、さらなる賃上げの原資を生むだろうというわけだが、産経、読売とも尤もな論調である。

◆4年連続ベアを評価

 東京は意外にも、まずまずの評価である。トランプ大統領の出現で今後の展開が見えない不安と不透明感の中、トヨタや日産が前年を下回るものの4年連続のベア回答を示したことに、「二年連続の前年割れ回答では消費の底上げ、デフレ脱却は期待できないが、暮らしを支える着実な賃上げは何とか守った」と。

 また、同紙が注目したのが、読売と同様、政労使のトップ会談で決着した「残業時間の上限規制」が示す働き方改革である。ただ、働き方改革は、同紙が期待する労働組合の要求だけで実現できるものではない。

 今回は特に、電通の女性新入社員の過労死という悲劇が世論として後押ししたことが大きかったということであろう。

(床井明男)