報道が過熱した豊洲の地下水“汚染”問題を冷静に掘り下げたBSフジ

◆科学的には安全確認

 豊洲市場の用地売買の経緯について調査する東京都議会の百条委員会で、20日に注目されていた石原慎太郎元都知事の証人喚問が行われたが、3日の記者会見と同様に「記憶にない」を連発するなどして、不評だったようだ。しかし、84歳と高齢であり、脳梗塞を患った氏の記憶にあまり多くは期待すること自体に無理があるように思われる。いずれにしても、築地市場の移転については、これとは別問題であり早期に決断する必要がある。

 石原氏の証人喚問の前日の19日に、移転を判断する指針とされる、豊洲市場の地下水のモニタリング調査の、再調査の結果が公表された。環境基準を大きく超えるベンゼンなどが検出されたものの、専門家会議の平田健正座長は「汚染土壌に、人が接触するリスクは無いため、法律や科学的には安全」とした。これについて、小池百合子都知事は、豊洲が「安全」だと認めているが、「安心」については、消費者の信頼が得られていないと強調した。

 一方、石原氏は、百条委員会で「地下水で床を掃除したり魚を洗ったり使うわけではない。いったい何の害があるのか」などと述べ、小池知事に豊洲移転への決断を求めた。

 本来、科学的には人に害のないはずの地下水の”汚染”をめぐってこれまで報道が過熱していたということになるが、この問題について掘り下げたのが、20日のBSフジ「プライムニュース」だった。

◆土から水に議論変化

 番組では、東京ガスが百条委員会に提出した資料で明らかになった都と東京ガスの間で結ばれた二つの確認書(2001年2月と05年5月)の内容を紹介。司会者の反町理氏は、合意文書では汚染処理の範囲など土壌の対策のみ話し合われていたが、今では地下水の質が議論の対象になっていることを指摘した上で、「『土』から『水』の問題に議論が変わっていることについてどう思うか」と質問した。

 これについて、環境リスク工学が専門の京都大学大学院工学研究科の米田稔教授は「土壌汚染は土壌の対策を行えばいい。地下水を使わないのであれば、地下水の質を問題にする必要はない」と述べ、本来は汚染土の処理で十分だったと説明した。

 これに、番組に出演した百条委員会のメンバーも同意。自民党の河野雄紀都議は、本来であれば05年の基準で十分に安全が確保されているが、その後の対策は、議会や業者の要望を受けて、「風評被害を払拭(ふっしょく)するため」に上乗せされたものとし、そのために「コストが計り知れなく大きくなったのも事実」と語った。

 都民ファーストの会の音喜多駿都議も、「議会の議論を見ても、上げ過ぎたと思う」と述べ、「世論や政治判断が安全安心を求め続けてしまった。それが今の混乱につながっている」と強調した。

 石原氏は、百条委員会で「私が地下水について非常に厳しい基準を設置したことは間違いない」と述べた上で、「ハードルが高過ぎたのかもしれない」と認めている。過度に厳しい基準を設定することで、膨大なコストが掛かり、混乱を招いたことを考えると、不安を煽(あお)るメディアや一部の世論に安易に迎合するよりも、科学的な事実を粘り強く説得することの大切さを感じる。

◆出尽くした判断材料

 米田教授は、豊洲移転を実現することで「日本は科学技術立国を目指してほしいので、さすがに日本は科学的判断をできる国民なんだなと世界に知らしめてほしい」と述べたが、同感である。

 科学的に「安全」であっても、「安心」のためにコストが膨らむ構図は福島第1原発事故後の除染対策などでも見られたことだ。番組は、土壌汚染対策の経緯をたどることで、この問題点を浮かび上がらせていた。

 水質モニタリングを豊洲市場開設の条件とすべきでないと早くから指摘していた前大阪府知事の橋下徹氏は、自身がMCを務めるテレビ朝日系「橋下×羽鳥の番組」(20日)で、「地下空洞の問題も地下水の問題もテレビメディアがあおり過ぎた」と述べ、「安心の問題は、コミュニケーション。今、小池さんに一番欠けているのはリスクコミュニケーションだ」と指摘している。

 昨年の移転延期以来、豊洲移転に向けての判断材料は出尽くしたと言えるだろう。科学的に安全が確認されている以上、今後、小池知事は移転に向けて世論を説得することが求められるだろう。

(山崎洋介)