沖縄が「最下位維持」する県民所得の算出基準のずさんさ報じた産経
◆基準違い比較できず
産経24日付の記事には思わず「えっ」と声が出てしまった。政府は各都道府県で計算方式が異なるずさんな県民所得の算出基準を戦後初めて統一する方針を決めたと報じていたからだ。
ということは、戦後70余年、県民所得の数値は都道府県が勝手に計算して発表していて、比較できるシロモノでなかったということなのか。
現状の統計では、計算方式を公表していない県があるのに加え、所得額を左右する指標の一つである「1人当たり現金給与」を考慮しているケースと、そうでないケースが混在していると産経は言う。県民所得をめぐる「都道府県ランキング」とか「金持ち県か貧乏県か」などといった比較はデタラメだったわけだ。
統計とは、「集団における個々の要素の分布を調べ、その集団の傾向・性質などを数量的に統一的に明らかにすること。また、その結果として得られた数値」(広辞苑)を言う。その調べる基準が違っているなら、とても統計とは言えない。よくも政府はデタラメをほってきたものだと呆(あき)れてしまった。
すでに産経は5日付でこれを沖縄問題として取り上げていた。沖縄県が県民所得を低く計算し「最下位維持」で基地問題の足かせを訴えているとの記事で、てっきり沖縄だけの問題かと思っていたが、そうではなかった。
この報道を受け政府は、都道府県の統計担当者を集めた会議を開催してガイドラインを策定し、平成30年公表の27年度分から適用するとしている。「沖縄の県民所得が計算方式の違いによって大幅に増加する問題を受けた措置」としているから、産経が報じなかったら、そのままほっておかれたに違いない。瓢箪(ひょうたん)から駒ならぬ、沖縄から統計の全国統一。これは一種のスクープで、産経のお手柄と言ってよい。
◆「貧乏県」神話を利用
さて、その沖縄の県民所得だが、産経によると、21年度に高知県を抜いて戦後初めて最下位を脱したため、翌年度に計算方式を変更し、22年度以降も最下位を維持した。24年度の1人当たり県民所得ランキングで全都道府県の中で最下位の47位の203万5000円だった。
ところが、高知県(調査時点では45位)と同様の方式で計算し直すと、沖縄県の1人当たり県民所得は266万5000円で63万円増加し、全国28位に浮上する。県内総生産も、公表されている3兆8066億円から、何と4兆6897億円にまで上昇するという。
政府の担当者は「沖縄県は他県に比べ、所得が低くなる方式で計算している」と指摘し、「昭和47年の沖縄返還後も基地問題を抱え、そのことが経済的な足かせになっていることを県内外に示したいのではないか」と疑っている。
これに対して沖縄県の企画部統計課は「22年度の計算方式の変更は国の基準見直しに伴って行った。統計は自らの県の実情を反映させて計算しているが、恣意(しい)的に最下位になるようにしているわけではない」と説明している。果たしてそれを真に受けていいものだろうか。
当時は仲井眞前知事時代で翁長革新県政下のことではないが、今も「沖縄貧乏県」という神話がまかり通り、それが米軍基地のせいにして反米闘争に利用されたり、沖縄関連予算の増額要求に使われたりしている。
◆現状を冷静に報じよ
沖縄タイムス10日付は厚生労働省の2015年毎月勤労統計調査を基に「給与 沖縄最下位続く 所得格差、全国2位」と報じ、沖縄は10年以来、最低が続いており、低賃金社会が固定化していると「貧乏県」を強調している。
同紙は同日付から「『働く』を考える 第一部 労働者のすがた」の連載を始め、「沖縄は平均給与が全国の8割に満たない低賃金社会だ。ワーキングプア(働く貧困)率は全国一高く、社会問題になっている子どもの貧困は親の貧困にほかならない」とし、期間工やゴミ回収作業員、設備メンテナンス元正社員らの「貧乏物語」を綴(つづ)っている。
それでも県民所得は高知県の算定式なら全国28位なのはどうしてなのか。軍用地料の収入が多いのか、ぜひその“カラクリ”を探ってほしい。いずれにしても新聞は冷静に沖縄の現状を報じるべきだ。
(増 記代司)





