農業改革で全農に強く迫った読、朝と政府・与党を批判した産、毎

◆自民案を評価する読

 政府の農業改革の方針が先月29日に決定した。農協グループの「商社」機能を担う全国農業協同組合連合会(JA全農)に事業の抜本的な見直しを求めるとともに、バターなどの原料となる生乳流通の自由化が主な柱である。

 農業改革は安倍晋三政権が進める成長戦略の一つだが、それ以前に、従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など喫緊の課題でもある。日本農業の再生は、トランプ次期米大統領の離脱明言で先が見通せなくなった環太平洋連携協定(TPP)の発効いかんに関係なく取り組まなければならない問題である。

 さて、規制改革推進会議の農業部会提言から自民党の農業改革案決定、推進会議の最終提言、政府方針決定まで、各紙はどう論評したか。

 読売、毎日、産経の3紙は26日付で一番のヤマ場だった自民党の改革案決定について論評し、朝日は政府方針の決定当日(29日)に社説を掲載した。各紙の見出しは、読売「まず当事者の覚悟が問われる」、毎日「看板だったはずなのに」、産経「改革の後退は許されない」、朝日「組合員に選ばれねば」である。

 総じて、読売と朝日はJAグループに、毎日と産経は政府・与党に厳しい論調となった。

 読売は、自民党の改革案を「政府の規制改革推進会議の提言を大筋で取り入れており、妥当な内容だ」と評価した。

 推進会議農業部会の提言が訴えた1年以内に実施するという期限設定が見送られたことについて、読売は「推進会議は、あえて短期間に実施を迫る『高めの球』を投げ、全農に改革を促す狙いがあったのだろう」と理解を示す。「急進的な提言内容にJAグループが強く反発したため、自民党が全農の自主性を尊重しつつ、改革に向けて収束を図った」わけである。

 それというのも、全農は民間組織であり、政府が法的拘束力のない改革案を強制することはできないから、自民党案が期限を設けなかったのは「実現性を見据えた政治判断」(読売)という。従って、肝心なのはこれに対する全農側の対応であり、同紙が指摘するように、「問題は、全農自身が大胆な改革に踏み込めるかどうかである」ということである。尤(もっと)もである。

◆懐疑的な見方の毎日

 こうした見方は甘い、と感じさせるのが、毎日、産経である。毎日は、「全農がどこまで本腰を入れて取り組むのだろうか」と懐疑的である。

 政府方針、その基になった自民党案は改革の数値目標を含んだ年次計画の策定、公表を全農に求めたが、毎日に言わせれば、こうした「自主改革は全農が主張してきた。非効率な流通形態を温存してきた全農が大胆な改革に踏み込めるとは考えにくい。目標が低いと、チェック効果も限られる」というわけである。

 農業改革を成長戦略の要となる「岩盤規制」改革の本丸に位置づけ、全農改革を「試金石」と強調してきた安倍首相に対し、毎日は「看板倒れに終わらせないため、改革をしっかりと仕上げていくべきだ」と強調する。

 産経も毎日と同様、「このままでは、岩盤規制に踏み込めなかった印象は免れない」「実効性ある計画が示されなければ、改革は後退する」と憂慮を示す。

 JAグループに対し、特に産経は手厳しい。同紙は「今やこの組織の意向に沿って動くことは、日本の農業を守り、競争力を高めることに必ずしもつながらない」と指摘し、「農協の存在自体が農業の体質強化を妨げているともみなされはじめている」とまで強調する。同紙は購読者の多くが都市生活者であり、JA批判を言いやすいという面もあろう。

◆政府批判のない朝日

 意外だったのは、朝日に政府・与党への批判がなく、ほとんどが全農に改革を強く迫るものだった点である。

 朝日も読売同様、農協が民間団体であるため、「業務の細部にまで政府が左右すれば、自己責任に基づく経営が失われかねない」とし、その代わり、「ただ、農協側がそう反論する以上、組織運営に組合員の声が十分に反映されているか、他の企業・団体と競争したうえで組合員に選ばれて利用されているか、改めて厳しく問われることになる」と冷静な指摘だった。

(床井明男)