シリア・アレッポの惨状は西側の無為無策が原因と訴える欧米各紙

◆止まらぬ民間人虐殺

 シリア北部、同国第2の都市アレッポへのシリア政府軍による包囲、攻撃が続き、人道危機への対応が叫ばれている。「第2次大戦後、最大級の民間人への虐殺行為となり得る事態」(デラットル仏国連大使)を前に、なすすべのないオバマ政権、民間人への攻撃を「解放」と称して正当化するシリア、ロシアに対する風当たりは強い。

 英紙ガーディアンは電子版11月30日付社説「西側の残忍な失敗」で「世界は、この人道的、軍事的惨事を前に、犠牲者の数を数えることしかできない」とその無力ぶりを強く非難している。

 米軍など西側諸国は、内戦の早い段階から、シリアの反政府勢力を支持、民兵らを訓練し、装備を提供してきた。しかし、支援の規模は非常に小さく、反政府勢力内でも統制が取れなかったことが、アサド政権の存続を許してきた。それでも、2015年の夏ごろまでには、政権転覆の危機が指摘されていた。

 ところが、昨年9月のロシア軍の介入で事態は急転した。空軍力を生かした攻撃に反政府軍はなすすべはなく、多くの民間人の犠牲者を出していることに、シリア、ロシア両政府は「目をつぶった」ままだ。

 ガーディアン紙は、西側諸国は「人道危機を非難し、警告する」以上のことはできず、「国連機関の無力ぶりは明らかだ」と指摘する。さらに「反政府勢力が支配してきたアレッポの事態は、西側の矛盾に満ち、一貫性のない政策の惨めな失敗を意味する」と米国などの中途半端な軍事介入が、現状につながったと訴える。

◆勢いづく露軍事介入

 現在のアレッポは、1982年のシリア西部ハマでの虐殺を思い起こさせる。バッシャール・アサド現大統領の父、故ハフェズ・アサド大統領が、イスラム教スンニ派組織ムスリム同胞団を主体とする反政府勢力を壊滅させるためにハマを包囲、壊滅させた事件だ。死者は2万人前後とみられているが、いまだに正確な数は不明だ。

 ドナルド・トランプ氏が米大統領戦で勝利したことも、ロシアにとっては追い風だ。

 トランプ氏は反政府勢力への支援停止と、過激組織「イスラム国」(IS)殲滅(せんめつ)のためにアサド政権とロシアを支援することを明らかにしていた。ロシアのプーチン大統領との電話会談では、「最大の敵、国際テロと過激主義との戦いで力を合わせることの必要性」(ロシア政府)で一致した。

 シリア軍とロシア軍がアレッポへの空爆を再開したのは、その直後。米紙ワシントン・ポストは「偶然だろうか。プーチン氏について分かっていることを考えれば、そうではないようだ」と、トランプ氏との会談がロシアのシリア軍事介入を勢いづかせていると主張する。

 トランプ氏は選挙戦中からISの殲滅とシリア反政府勢力への支援停止を主張してきた。アサド政権はISと戦い、反政府勢力は「何者だか分からない」ことがその理由だが、シリア政府軍が攻撃しているアレッポにISはいない。

◆米国が「ゴーサイン」

 ワシントン・ポスト紙は電子版11月15日付で「米国はプーチン氏に虐殺へのゴーサインを出している」と、トランプ氏の対応が、シリアの惨状に拍車を掛けていると懸念を表明している。

 アレッポで起きている人道危機に対して「オバマ氏は止める気はない。トランプ氏は無関心」と米国の対応の無責任ぶりを糾弾する。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルは11月23日、トランプ氏の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が10月、ロシアに近い人物らとの会合に参加し、シリア内戦を終わらせるためにロシアに協力することを話し合ったと報じた。

 ロシアは年内にアレッポ東部での作戦を終わらせる意向とみられている。そうなれば、さらに数十万人が家を失うことになる。米国の「ゴーサイン」で、アサド政権はさらに有利に戦いを進めらるようになる。

 米紙ニューヨーク・タイムズは1日、ISと戦うには「アサド大統領と反政府勢力の間の和平合意が必要だ」と主張したが。同紙が米国のシリア軍事介入に否定的だったことを考えれば、今さらという印象は拭えない。

 トランプ氏の「公約」が果たされれば、シリア内戦は短期間で終息に向かう可能性が高い。だが、それまでにさらに大きな犠牲が払われることなる。

(本田隆文)