ユニクロの「真の姿」がまだ見えぬ週刊文春の「潜入一年 渾身ルポ」
◆名前変えアルバイト
「ユニクロ潜入一年」の見出しが目を引く。週刊文春(12月8日号)のトップ記事だ。この1年、同誌が「文春砲」と言われるスクープ記事を連発してきたが、その勢いは年末に来ても衰えず、さらに放つ砲撃である。ユニクロ本社に激震が走ったのは想像に難くない。
記事は「ジャーナリスト横田増生」氏による潜入ルポで、同氏は名前まで変えてアルバイトに応募し、1年間にわたり取材を続けてきた。なぜ改名したかと言えば、同氏が名前を明かせば入社できなかったからだ。
2011年にユニクロのサービス残業など“ブラック”な側面を描いた『ユニクロ帝国の光と影』を同氏は出した。これに対して、ユニクロは名誉棄損で出版元の文藝春秋社を訴えたものの、14年末、ユニクロの上告が棄却され、高裁での文春勝訴が決定した。
横田氏は引き続きユニクロを取材し、中間決算会見の取材の了承を取り付けながらも、最終的には拒否される。ところが、同時期にユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正社長は、「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。(略)アルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と雑誌のインタビューで語っていた。
「ならば、働いてみよう」と横田氏は潜入を決めたのだという。同氏はこれまでも「アマゾン・ドット・コムやヤマト運輸など複数の企業への潜入を行ってきた」が、1年という長期取材は今回が初めてだった。
◆高い目標設定は普通
50歳を超えた身にとって、店員はほぼ20代、店長でも30代が普通という店舗で若者と同じように働くのは肉体的には相当にきつい。だが、厳しい労働自体は珍しいことではない。潜入の目的はシフトの過酷さ、サービス残業の実態把握だ。そして同氏が「働いた三店舗すべてで、サービス残業が行われていることを確認した」という。
しかし、記事を読む限り、売り上げ競争をしている以上、高い目標を設定して、それを達成させようとするのはどこも同じであり、そこで「心が折れる」者もいれば、「怒声が飛び交う」こともある。それをことさらあげつらうのはどうか、という気もする。第一、ジャーナリストこそ最も仕事をしている部類に入るのではないか。
それにユニクロのような小売業では、同氏が書いているように、そもそも「絶対的に人手が足りない」のだ。セールでもしようものなら、連日の長時間シフトもやむを得ない。ユニクロで働いた経験のある人の話を聞くと、高い目標に対して店員が一丸となって取り組む体験は貴重なものだという。これはどの企業でも同じことだ。その中で、目標に積極的に取り組んでいくのか、それとも言いなりに働かされるのか、取り組む姿勢によって受ける印象は180度違う。
中国人アルバイトのエピソードも紹介されているが、シフト延長を「きっぱりと」断ることもできるのだ。“お願い”されると受けてしまいがちなのは日本人の特性の一つだろう。
◆“同僚”の努力顧みず
同氏は、売り上げ達成後に店長はじめ店員と分かち合った達成感や慰労についてはほとんど書いていない。潜入とはいえ“職場の同僚”の取り組みを顧みないのは公平性に欠けてはいないだろうか。
「ユニクロ側の労働時間に関する意識も随分と高くなったのだろう。私が、休憩時間を十分切り上げて売場に出ようとすると、指示を出す担当者が飛んできて、『あと十分休憩を取ってください』と言って、休憩室に追い返された」
どうしてこの時、横田氏は「十分切り上げて」売場に出ようとしたのか。早く戻って同僚の負担を軽くしたいと思ったのか、少しでも多く仕事を片付けたいと思ったのか。いずれにせよ、横田氏は自ら「十分」の「サービス」をしようとしたわけだ。職場ではそうした意識が自然と働くものだ。
「働いてみると、日本を代表する企業・ユニクロの真の姿が私なりに見えてきた」と結んでいるが、それが何かは述べていない。「潜入は今も続いている」という。次号ではユニクロの見解、反論が掲載される。横田氏が見た「真の姿」に注目したい。
(岩崎 哲)





