各社のイデオロギー色で”偏向”する世論調査の「クセ」を分析した日経
◆中間の選択肢に集中
米大統領選で信頼を地に落としたのが米メディアの世論調査だろう。トランプ勝利を予測できず、赤恥をかいた。そこで気になるのが、わが国の世論調査だ。
日経20日付「永田町インサイド」は日本の世論調査について「ほぼ同じ調査方法で、同種のテーマについて聞いているのに、調査の結果が異なることがよくある。世論調査にはクセがある。それをどう読めばいいのだろうか」と、世論調査の「クセ」を分析している。それを要約すれば、次のようになる。
第1のクセは、賛否を明確にさせない中間回答を設ける「3択方式」を使うことだ。設問の仕方いかんで、巧みに“世論”をつくれる。
例えば、TPP(環太平洋経済連携協定)を議論する参院特別委員会で民進党の小川勝也参院議員は「国民の理解は全然進んでいません。8割の国民が反対している」として、共同通信が10月に実施した世論調査結果を示した。「(TPP承認案を)今国会で成立させるべきだ」17・7%、「今国会にこだわらず慎重に審議すべき」66・5%、「成立させる必要はない」10・3%で、これをもって小川氏は8割の国民が反対しているとした。
ところが、日経の10月の世論調査では今国会でのTPP承認案に賛成か、反対かの二択で聞いたところ、賛成38%、反対35%と拮抗(きっこう)。「反対8割」とは違った結果となった。この差について東大大学院情報学環の前田幸男教授は「日本人ははっきりと意見を表明しない傾向がある。共同は3択で聞いたので中間の選択肢に集中した」と指摘している。
二者択一を迫れば賛否は拮抗するが、「今国会にこだわらず」が明確な賛否ではない中間的な選択肢と見なされ、そこに多くの人が流れたというわけだ。
◆「聞き方」で世論誘導
第2のクセは、「聞き方」だ。これは朝日や毎日の世論誘導の常套的やり方で、日経記事も朝毎を例に挙げる。
昨年7月、朝日は安保法案の賛否を「集団的自衛権行使を使えるようにしたり自衛隊の海外活動を広げたりする」と説明して聞いたところ、賛成26%、反対56%。一方、読売は「日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために自衛隊の活動を拡大する」と説明して聞き、賛成38%、反対51%だった。
この違いについて早大政治経済学術院の田中愛治教授は「読売は平和や国際貢献を質問文で強調したことで、朝日で『反対』や『わからない』だった人の一部が読売では賛成に回った」としている。
自民党の総裁任期延長では毎日の11月調査は、総裁任期の延長を評価するか聞き「評価する」は33%にとどまり、「評価しない」が57%で過半数を占めた。ところが日経が「任期を延長し安倍首相が続投できるようにすること」の賛否を聞いたところ、賛成と反対は共に42%と拮抗した。一人の政治家が長く総裁を務めることには反対だが、安倍首相の続投には一定の評価があると日経は言う。
第3のクセは、新聞社自身の傾向だ。各社とも調査対象者は自社の読者でなく全国の有権者から科学的な手法で対象を抽出しているとするが、「〇〇新聞の世論調査です」と言うだけで、拒絶される場合がある。それで「社名を名乗って調査することで回答層が若干異なるという仮説が成り立つ」と、明治大学政治経済学部の井田正道教授は分析している。
◆読売は調査方式変更
これらをもって日経は「世論調査 設問に注目/選択肢も大きく影響」とする。要するに世論調査は意図的であったり、社自身のイデオロギー色が出たりして“偏向”している。そう心得ておくべきということだろう。
世論調査は「固定電話」にランダムに電話をかける「RDD」と呼ばれる方式が一般的だが、読売は今年4月から携帯電話にも電話をかける調査方式に改めている(4月8日付)。これで結果が微妙に変わるかもしれない。また世論調査結果を受けて人々の態度が変化する「アナウンス効果」もあり、世論調査は一筋縄でいかない。
米大統領選を他山の石とし、わが国の世論調査のクセを踏まえてメディア・リテラシーを高めたいものだ。
(増 記代司)





