経済失速の主因「消費増税」主張し補正待望論批判する産経の無責任
◆批判の資格はあるか
産経が第3次補正待望論を、13日付社説「主張」で「成長への疑問増すだけだ」と批判している。
総事業規模約28兆円の経済対策の第一弾となる第2次補正予算が成立したばかりであり、3次補正待望論は、産経の言う通り、確かにまだ「論外」であろう。しかも、それが今年末の日露首脳会談を経て、財政措置を伴う対露経済協力として想定されているのであれば、なおさらである。
同紙は「主眼はやはり、年明けの衆院解散説に伴う対応にあるのだろう」と推測し、「だとすれば、国費を党利党略で好き放題に使おうとする不見識さを問わねばならない」と言うが、尤(もっと)もではある。
しかし、3次補正ばかりでなく、今回成立した2次補正まで「そもそも組んだ意味はどこにあったのか」と批判する同紙に、その資格があるのかどうか疑問が残る。
アベノミクスの失速は現在、国内総生産(GDP)統計や日銀短観、その他の経済指標から見ても疑う余地はないであろう。また、それがいつから始まったかを検証すれば、2014年4月の消費税増税が大きな要因の一つであることも分かる。現在の状況はその影響に加えて、海外経済の減速、原油価格の下落、(現在は一巡した)熊本地震の影響、円高などが重なり、低迷が長引いているわけであるが、産経はその消費税増税を強く主張していたからである。
◆景気の失速を認めず
産経は今回、「補正を繰り返すのはアベノミクスの失速の裏返しではないか」と批判するが、正にその通りで、前述したように、アベノミクスは失速しているのであるが、同紙はその原因には触れず、失速していることすら認めていない。
「個人消費や投資に力強さを欠く状況は相変わらずだが、英国の欧州連合(EU)離脱問題などで懸念された海外経済リスクが急速に拡大しているわけでもなかろう」というのが、同紙が今回の社説で示した景気認識である。
確かに、海外経済リスクが急速に拡大しているわけではないが、「個人消費や投資に力強さを欠く状況は相変わらず」で、14年4月以降、内需の低迷、GDP成長の失速状態が続いているのである。
同社説はまた次のように言う。安倍晋三首相は国会論戦で、アベノミクスの成果を強調している。その通りだとするなら、さらなる景気対策を講じる前に、まずは2次補正の効果や日銀による金融政策の枠組み変更が景気に与える影響を見極めるべきだ――。
安倍首相がアベノミクスの成果を強調するのは、雇用面では確かに当てはまるが、消費や設備投資などでは同紙の指摘の通り「力強さを欠」き、全体として、現在のアベノミクスに当初のような勢いは全くない。首相自身がそう認識しているからこそ、あからさまには言えないものの、補正予算という形で増税で失われた勢いを何とか復活させようとしているわけである。
産経は、首相が消費税増税の延期を表明した際に「再延期の波紋」という連載を6月初めに掲載し、(増税による)消費低迷の過ちを認めず、景気浮揚策も示さない財務省が、その後の重要な経済政策決定の過程で蚊帳の外に置かれる場面が目立つという「戦力外通告」の状態にあることを伝えた。これは正に、首相自らが一度は実施を決め、かつ実施した増税に対して、今どういう思いを抱いているかを示したものと言える。
◆財務省と同様の論理
今回の産経社説は、首相の表面的な言葉をなぞって批判するだけで、経済再生、デフレ脱却への危機意識がほとんどない。あるのは、「野放図な財政出動を止める意識が薄すぎる」という、財務省と同様な近視眼的な財政再建論の論理である。
自らが主張した消費税増税を主因に経済が失速し、それには反省も言及もない同紙に、景気浮揚を狙う補正予算を批判する資格があるのかどうか。
同社説が終りの部分で説く「痛みを伴う構造改革や成長戦略の深化こそ、アベノミクスに欠けているものである。真摯に向き合わなければ、経済再生は遠のくばかりだ」は、確かに正論ではある。だがその前に、現在の低迷を招く要因になった消費税増税について、過去の事例を含め徹底した分析・検証に同紙自身も「真摯に向き合う」必要があるだろう。
(床井明男)










