GDP横ばいに民間の奮起と政府に積極投資促す改革を求める各紙
◆設備投資減を深刻視
2016年4~6月期の国内総生産(GDP)は実質で前期比0・04%増、年率換算では0・2%増と辛うじて2期連続のプラス成長にはなったが、実質横ばいだった。
この4~6月期GDPについて、各紙そろって社説を掲載したが、論調を見ると実質横ばいよりも、設備投資の2期連続マイナスという状況をより深刻に受け止めているようで、民間投資に関する内容が多かった。以下に掲載する各紙社説の見出しの通り(掲載日付順)である。
16日付朝日「将来見据えた判断こそ」、日経「企業の成長期待を高める改革を怠るな」、毎日「民間の創意が試される」、東京「いつまで道半ばなのか」、17日付読売「企業の積極投資を促したい」、産経「民間の成長投資で打開を」、18日付本紙「経済対策の一日も早い実行を」――。
朝日は、過去最高水準が続いてきた企業収益は、ここ数カ月の円高基調を受けて減益に転じたとはいえ、水準はまだ高く、利益の蓄積もたっぷりあると指摘。なのに「企業の設備投資は1・5%減と低調だった」と強調し、「企業の経営姿勢」を問題視した。
また、民間シンクタンクのリポートを引用し、「利益の使い道と株価の関係を見ると、人件費に重点を置いた企業の株価上昇が最も目立ったという」として、「従業員や設備・研究開発への投資が欠かせない」と訴える。
◆予算の早期執行促す
これに対して、企業が将来の日本経済の成長力に確信を持てるよう、「政府は構造改革を着実に進めねばならない」と政府に対応を求めたのは日経である。
日経は、設備投資が弱い背景として、まず円高を受けて企業が収益計画を下方修正し、様子見の姿勢を強めている可能性があること、さらに長い目で見ると企業が期待する日本経済の成長力が下がっており、これが企業の前向きな投資を決めにくい一因になっているとして、企業の抱える事情に朝日にはない理解を示す。だからこそ、「政府は改革で応えねばならない」と言うわけである。
同紙はまた、そうした改革だけでなく、政府が決めた事業規模28兆円超の経済対策に対して、「当面の景気をある程度下支えする効果はある」として、「無駄遣いを防ぐ手立てを講じたうえで」と注文を付けながらも、予算成立後に速やかに執行してほしい、と強調した。尤(もっと)もである。
同紙も指摘するように、世界経済の強い牽引(けんいん)役が不在の中では、当面外需に期待はできず、それだけ「日本経済は内需の底力が試される局面にある」(同紙)からだが、朝日や毎日は、この必要性を認めない(7月24日小欄)。
経済対策に対して、読売は予算ありきの無駄な事業を排除しつつ、「公共投資を一過性の景気刺激に終らせない工夫が大切だ」とした。経済対策に盛り込まれた海外客船向けの港湾整備では、外国語の観光案内などソフト面が伴わなければ効果は上がるまいとの懸念があるからである。
読売が最も重要と強調するのは、日経同様、「国内市場の成長に対する期待を強めること」である。あらゆるモノがインターネットでつながるIoTや、クルマの自動運転技術などに用いる人工知能(AI)の開発・普及は大きな可能性を秘めており、「規制改革により新産業の育成を後押し」せよというわけである。
◆成長への期待が前提
ただ、読売などが、企業が「攻めの経営」に転じられるよう、政府は国内外で新たな市場を創り出す取り組みを急がねばなるまいなどと強調しても、最終的に行動を起こすかどうかは、経済合理性で動く企業の判断次第である。
しかも、企業が海外戦略に明るい展望を持てるようにする必要があるとして、読売が国会承認を求めた環太平洋連携協定(TPP)は肝心の米国で批准が危ぶまれる状況になっている。
朝日も「日本経済に必要なのは、企業の賃上げや投資増が自律的に持続する仕組みだ」とし、それを促す減税の検討を提案する。企業の投資環境の整備であるが、それも結局は、企業が成長の見通しや期待を持てた上での話しである。
潜在成長力を高める中長期的な対策も重要だが、当面の需要創出で景気を下支えし成長を促す経済対策も重要ということである。
(床井明男)