英国EU離脱を経済史から資本主義終焉の予兆とみるダヤモンド

◆「三枚舌外交」が元凶

 英国の欧州連合(EU)離脱は世界中に大きな衝撃を与えている。大方の予想に反して離脱を決めたものの次期首相選びに戸惑ったことも混迷を深めた要因であった。今後、英国は離脱に向けてEU各国との交渉に入っていくが、その道筋も不透明で長期になる見通しである。

 こうした英国のEU離脱に対して、週刊東洋経済(7月9日、16日号)、週刊ダイヤモンド(同)は2週続けて(週刊エコノミストは7月12日号のみ)特集を組んだ。一つの経済誌が2週にわたって同一の事件や出来事に焦点を当てて特集するのは珍しいが、これらの中で、ダイヤモンド(7月16日号)が経済史の視点から英国EU離脱を読み解くという興味深い特集を企画した。

 もちろん、他の2誌も歴史的な事件を通して今回の英国のEU離脱を記載しているが、それは単に一論文記事であり、歴史の特集として特化したものではなかった。それでも幾つか例を挙げれば、一つはエコノミストの福富満久・一橋大学大学院教授の「100年前の密約 中東混乱の根源はサイクス・ピコ条約 英国の『三枚舌外交』の罪と罰」という論文は目に留めておきたい。

 「英国のEU離脱は、中東の混乱に端を発する難民問題が大きな要因だった。しかし、その中東問題を作った張本人は100年前の英国である」と同教授は論ずる。第1次世界大戦の連合国側の勝利で英国とフランスはオスマントルコの分割に関して「サイクス・ピコ協定」を結ぶ一方で、英国はイスラム教徒(対アラブ人、フサイン・マクマホン協定)とユダヤ教徒(対ユダヤ人、バルフォア宣言)それぞれに中東で領土の約束をする。この英国の「三枚舌外交」が現在に至るまでの中東の戦火の要因となっている。

 つまり、現在の中東からの難民、あるいは移民の元凶となっているのは、かつて英国がつくった「三枚舌外交」に原因がある。とすれば英国は難民や移民に積極的に責任を取るのが本筋にもかかわらず、今回の難民や移民拒否を理由にEU離脱するのは道義的に無責任だというのである。

◆海洋国家VS大陸国家

 別な視点で、もう一つ例を挙げるとすると、東洋経済7月9日号の「英国の離脱は当然」と題する浜矩子・同志社大学大学院教授の記事がある。「(海洋国の)英国に大陸欧州的な予定調和の世界がどうしてもなじまない。経済主導で、実利追求型で、成り行き任せ。それが英国流儀だ。片や大陸欧州流は、政治主導で、理念先行で、計画的である。万事が水と油だ」と述べるが、「それはそれで(英国と大陸の)新しい関係を模索していけばいい」というのが浜氏の論調。長い歴史の中でつくられた海洋国家・英国と大陸国家の国民性の違いを知ることは欧州全体の国際政治を理解する上で不可欠な要素であることを知らされる。

◆今は歴史の大転換期

 さて、ダイヤモンド7月16日号の特集テーマは「EU分裂は必然!混沌を読み解く大経済史」。今回の事件を単に一経済事件として見るのではなく、まずは西欧経済史という大きな歴史の流れを見ていくと次の時代が見えてくるというのである。「英国のEU離脱は大問題だ。しかし、今、人類は数百年に一度しか起こらないような大転換期を迎えている」というのが同号の結論。同誌は、世界史に登場してきた覇権国家の歴史や欧州統合史、扇動政治史、金融・情報史などの側面から歴史を考察しているが、今回のEU離脱については、「膨張を続けた域内グローバル化の行き詰まり」と断言。当初、6カ国から28カ国まで加盟国を増やし、ヒトやカネの移動の自由化を進めていったEUはEU域内の調和にひずみが生まれ、そこに不満と疑問が湧き上がっているのが実情。同誌はこうした見解を踏まえて、さらに、これまでの欧米中心の資本主義体制の終焉(しゅうえん)が近づきつつあると指摘する。

 水野和夫・法政大学教授は西欧を中心とした400年に及ぶ金利の推移を挙げて「今や、日欧はマイナス金利の状態にある。…。金利は利潤と同じ。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させることが資本主義の基本的な性質であるなら、すでに資本主義は機能していない兆候」と語る。資金需要があれば金利が上がるが、グローバル化した狩猟的な金融資本主義が近い将来終焉に向かうという説には説得力がある。

 ダイヤモンド7月16日号は特集の最初に、「日々の情報に右往左往することなく、大局観を持って事態を判断、予測するには、歴史に学ぶことが必須となる」と述べている。また、かつてプロイセンの宰相ビスマルクは「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」といった。夏休みを前に、本腰を入れて歴史を勉強するのもいいものだ。

(湯朝 肇)