増税の再延期「連載」で財務省悪玉論を掲載した産経の「主張」に注目
◆よく言い切った連載
「財務省がこの国をだめにしてきた」――安倍晋三首相が1日に消費税増税の19年10月まで2年半の延期を表明したのを受け、産経が翌2日付から始めた連載「再延期の波紋」㊤での冒頭で、よくぞ、ここまで言い切った、というのが正直な感想である。
この記事は小川真由美記者の署名原稿で、財務省に「戦力外通告」、の大見出しに、消費低迷過ち認めず/景気浮揚策もなし、との中見出し。
記事の趣旨は、財務省は今回の消費税再延期という重要な政策決定の過程で蚊帳の外に置かれる場面が目立つが、それは税率8%への増税による消費低迷を一時的だと見通しを誤ったにもかかわらず、その過ちを認めず、景気浮揚策も示さないからなどで、長期政権を見据える首相からの“戦力外通告”を払拭するのは容易ではない、というもの。
正にその通りで、財務省が消費税増税の見通しを誤った点は、小欄でもたびたび取り上げた。過ちを認めず教訓にしてこなかった点も同様である。
それでも、前述のように、「よくぞ、ここまで…」との感慨を持ったのは、通常、大手マスコミは属する財務省の「財政研究会」という記者クラブを気にして強く言いにくい面があるからである。
産経記事冒頭の「財務省がこの国…」はもちろん、ある政府高官のコメントであり、産経記者自身の言葉ではない。財務省から何か言われても、逃げ道は用意してあるという感じはするが、それでも掲載した同紙の勇気を称(たた)えたい。
◆増税延期を朝毎批判
財政再建、消費税に関する大手マスコミの論調は、小欄でも指摘してきた通り、財務省の見解とほぼ同じ。最初の消費税増税が実施された1997年の時も、2回目の2014年の時もそうである。
日本の財政赤字は、国内総生産(GDP)に対する国債発行残高比で先進国最悪で、財政は危機的状況にある。年々増加する社会保障費の安定財源を確保するために、消費税増税は不可欠である――。
財政危機を煽(あお)った財政健全化論はウソとは言えないまでも、致命的な欠点があった。増税の経済への悪影響の過小評価である。増税実施のために意図的にそうしたのか否かは定かでないが、結果としては前述の通り、「見誤った」(産経)形になり、増税再延期を決断した首相の信頼を失うに至ったわけである。
大手マスコミの論調に話を戻すと、東京と本紙以外は消費税増税を積極的に支持。それでいて、今回、首相が増税再延期を表明すると、海外経済の不調を理由にした延期に「いかにも強引な理屈」(毎日2日付社説)、「とても納得できる説明ではない」(朝日同)などと批判した。延期の主因が、自らも支持し主張した消費税増税の影響による内需の不振にあることを棚に上げての批判である。
東京2日付社説は、今回の増税延期表明に「逆進性が高い消費税の増税を見送ること自体は妥当ではある」としたが、その根拠を途上国経済の減速など世界経済のリスクに求めていることには「無理がある」「アベノミクスの誤りを認めることが先決ではないのか」と批判した。
この点は同感で、ただ安倍首相としては選挙対策上、そういう対応が取れなかったということであろう。
東京は3日付社説で、消費税に反対してきた理由について、「前提となる社会保障の抜本改革が進まず増税だけが進むことを恐れるからだ」とした。尤(もっと)もな指摘である。
◆悪影響主張で触れず
注目したいのは、連載で財務省を間接批判した産経の社説の論調が今後どう変わるか、そして、それが他社にも広がりを見せていくか、である。
産経2日付主張は、首相の再延期表明を「その判断自体は現実的かつ妥当なものといえよう」と評価。ただ、同紙は景気回復が遅れている理由については、金融緩和と財政出動で景気を刺激している間に、生産性向上や成長市場創出などの構造改革を進め、持続的な成長につなげるのがアベノミクスの基本なのに、「この改革が不十分なため、いくら企業業績や雇用が改善しても先行きの展望が開けなかったのではないか」とした。
しかし、構造改革はあくまで中長期的な対策であり、景気回復へ短期的に効果を発揮するものではないし、朝日や毎日などと同様、消費税の影響に言及しない(できない?)でいる。社説の論調自体にはまだ、自己批判にもつながる、連載並みの財務省批判は見られない。
(床井明男)