4野党野合の参院選統一候補に「わかりやすい」と気安く誘う朝日
◆公約破り薦めた例も
誰が言ったのか、「理屈と膏薬(公約)はどこにでも付く」。「張り替えるほど効く」とは著名な政治家の弁とか。そんな「公約」を嫌って登場したのが「マニフェスト」。元来、声明文や宣誓文を指すそうだが、わが国では「政権公約」として知られる。2000年初頭から使われ始め、旧民主党が政権交代を実現させた09年総選挙も「マニフェスト選挙」と称された。
その“元祖”とも言うべき民進党は、今回の参院選ではこの表現を使わず、「重点政策・国民との約束」との標題にするそうだ。政権選択選挙ではないので「政権公約」の表現はなじまないというのだが、産経9日付は「看板倒れに終わった旧民主党政権のマニフェストのイメージを払拭(ふっしょく)する狙いがありそうだ」と解説している。
今回、安倍首相は14年衆院選での公約だった消費税増税の延期を決めた。これも張り替えるほど効く?
が、朝日は痛烈に批判する。5月31日付社説は「首相はまたも逃げるのか」とのタイトルを冠し、1度目の増税延期を表明した14年11月の記者会見で安倍首相が「(増税を)再び延期することはないと断言する」と語ったとし、「この国民との約束はどこへ行ったのか」と噛(か)みついている。
だが、朝日はそんな偉そうに言えるのだろうか。09年8月に民主党が政権を奪取した際、どのメディアよりも先に民主党に公約破りを薦めたのがほかならない朝日だった。開票結果を報じる同31日付社説で早くも「賢く豹変する勇気も」と言ってのけた。
民主党の看板公約だった高速道路の無料化について財源が不安だとして見直しを求めたのだ。その理由は、朝日の世論調査で多くの人が財源に不安だと答えているからだとした。世論を盾にした豹変の勧めだった。
◆“票”の振り込め詐欺
それならば今回の増税延期はどうか。朝日の世論調査(5月24日付)では消費税10%引き上げを「延期すべきだ」が59%に上り、「延期すべきではない」の29%をダブルスコアで圧倒していた。
安倍首相の増税延期表明後もそうで、読売の世論調査では延期を「評価する」は63%で、「評価しない」の31%を大きく上回った(6日付)。朝日が世論を根拠に公約破りを容認するなら、安倍首相の増税延期にも「賢く豹変する勇気」と称(たた)えるべきではないか。
民主党の政権奪取では朝日は旗振り役を演じた。マニフェストはその“目玉”だった。それが政権交代が成った途端に豹変を薦めたのだから、少なからず有権者は「(票の)振り込め詐欺」に引っ掛かった思いだったろう。
では、今回の参院選はどうか。朝日10日付社説は民進、共産、社民、生活の4野党が32ある1人区すべてで統一候補を擁立し、政策協定で改憲阻止をうたったことで「野党共闘 わかりやすくなった」と称賛する。
朝日によれば、政権選択を問う衆院選では政権獲得後にどんな政党の組み合わせで、どの政策を実現するか、その方向性を有権者に示しておくことが欠かせないので、単なる「反対」だけでは済まない。
だが、参院選は政権への中間評価とも言えるので「思いをともにする野党と市民が、政権に異議を唱える民意の受け皿をめざす動きには意義がある」とする。つまり朝日は参院では民進・共産の野合であろうと単なる「反対」だけで十分だと言っているのだ。参院は「良識の府」とされるが、これでは「反対の府」に落ちぶれてしまう。
◆安倍政権頓挫が狙い
言うまでもなく、国会は国の唯一の立法機関だ。法律案は衆参両院で可決されないと成立しない。むろん衆院に優先権があり、参院で否決された場合、再び衆院で出席議員の3分の2以上の賛成で成立するが、実際はハードルが極めて高い。
と言うのは、野党が参議院で多数派となって委員長ポストを独占し、審議拒否や引き延ばし戦術を駆使すれば、容易に法律案を潰(つぶ)せるからだ。そうなれば、国政は停滞し、安倍首相の政治は頓挫する。
それが朝日社説の狙いなのだろうが、そんな心配ご無用とばかりに理屈をこねて気安く野党候補へと誘っている。投票後に「振り込め詐欺」と気付いても後の祭りだ。理屈と朝日社説はどこにでも付く。そう考えれば、合点が行く。
(増 記代司)