LGBT概念広めたNHK、今度はその「枠を超えて」とマッチポンプ

◆当事者間で不協和音

 5月20日放送のNHKの特報首都圏のテーマは「あなたの中の“男と女”-LGBTの枠を超えてー」だった。「性的少数者」の意味で使われるLGBTは、今では頻繁にメディアに登場するようになったが、それを牽引(けんいん)してきたのはNHKである。その公共放送が今度は「その枠を超えて」とはいったいどういうことか。

 LGBTという言葉は米国で生まれ、1990年代に日本に入ってきた。L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(両性愛者)、T(トランスジェンダー)が連帯して、権利拡大運動を進めようということで使われるようになったのだ。「同性愛者」という言葉には、抵抗を感じる人が少なくないが、LGBTというアルファベットなら、その意味がはっきり伝わらないので、逆に社会に浸透させやすいとして採用されたのかもしれない。

 だが、LGBは男性を好きになるか、女性を好きになるかという「性的指向」から見た分類である。これに対して、Tは「性自認」、つまり体の性と違った心の性を持つ人のことだから、これを一緒に扱うことには、どだい無理がある。

 さらに、LGBTには、いわゆる大多数の「異性愛者」が入らないので、性的多数者と性的少数者との対立構造を作ってしまうというマイナス面も浮上してくる。その上、性的少数者と言っても、その中にはLGBTの枠に入らない人がいるから、当事者の間から不協和音が聞こえてくるようになった。

◆概念の拡大に批判も

 たとえば、I(インターセックス)という身体的に男女の区別がつきにくい人がいる。差別をなくそうということで出てきたLGBTの概念が新たな差別を作り出すことになってはいけないとして、「LGBTI」という言葉が生まれている。

 「LGBTQ」という呼称もある。自分の心の性別がよく分からないという意味での「クエスチョン」と、英語の「変人」という意味の「クイア」からQを付け足したのだ。こうした概念の拡大に対しても批判がある。LGB以外の人の中には性的指向の問題と同列に扱われることを嫌う人もいるのである。だから、ややこしい。

 今回番組では、また新しい言葉を紹介した。「SOGI」(ソギ)だ。これを解説したのは、タレントで文筆家の牧村朝子。「心の性」と「好きになる性」を含んだ概念だというのだが、そう言われても理解できないだろうから、さらに解説を加えよう。

 SOは「セクシュアル・オリエンテーション」、つまり性的指向を意味する。また、GIは「ジェンダー・アイデンティティー」、こちらは性自認の略で、合わせてソギだ。特定の人を指すLGBTは一つの枠をつくることになったが、ソギは性的指向や性自認は人それぞれ違うという含意のある概念で、「全人類が対象になり、広い視点に立てる」(牧村)という。番組の副題「LGBTの枠を超えて」の意味はこれである程度理解できた。

 レズビアンの牧村は雑誌「現代思想」2015年10月号で、「私は、私でしかありません」として、「LGBT当事者」を名乗らないと宣言している。LGBTという概念が一つの壁をつくっているからだ。しかし、LGBT概念を広めてきたのはNHKである。今度はソギを紹介するとは無意識にマッチポンプをやっているのだ。

◆数の偏りを説明せず

 また、番組は「心の性は、最新の科学でさまざまな影響によって成り立つことが分かってきました」と解説した。例えば、生まれたばかりのラットに男性ホルモンを投与すると、メスの脳がオス化する。ショウジョウバエの遺伝子を操作すると、オスでもメスに興味を示さなくなるばかりか、オスに求愛行動を起こすようになる。つまり、性はホルモンや遺伝子によって左右されるというのである。

 人間も心の性、好きになる性は一つの要因で決まるのではなく、遺伝的要因と環境的な要因が重なり合って決まるから、結果として、性が多様化するというのはごく当たり前のことだという。しかし、性に多様性があっても、数は偏っていて一定の枠に集中する。大多数の人が異性愛者である理由を生物学的に説明しなかったのは、NHKがLGBT概念にこだわっているからなのだろう。(敬称略)

(森田清策)