3月日銀短観の景況感予想の悪化にも反応が鈍く論評が少ない各紙

◆読売は厳しく問題視

 民間経済調査機関の予想通り、3月日銀短観による景況予想は良くなかった。大企業製造業で2期ぶり、大企業非製造業では6期(1年半)ぶりの景況悪化だった。

 日本経済はこのところ、国内総生産(GDP)成長率が四半期ごとにプラスとマイナスを繰り返し、力強さが全く見られない。安倍晋三政権が目指したデフレ脱却への「経済の好循環」はすっかり影を潜めてしまった形である。

 それにもかかわらず、各紙の反応は鈍いというか、社説で論評を掲載したのは読売(2日付)と本紙(3日付)だけで、あとは毎日が「異次元緩和3年」の社説(4日付)で一部触れた程度である。

 読売は日頃から経済重視を唱えているだけあって、今回もきちんと押さえていて、抜かりがない。

 同紙は冒頭、「景気の先行き不透明感が強まっている」と強調し、新興国経済の減速や年初からの円高・株安を受けて今後の業績を不安視する見方が強まっている、と指摘する。そして、「3か月後を予想した先行きの指数が、景況感の一段の悪化を示していること」を問題視する。

 それというのも、この企業の先行き予想の前提になっている想定為替レートが、現在より5円ほど円安の1㌦=117円台だからで、「現在の円高水準が続けば、企業業績はさらに厳しくなろう」(同)というのも道理である。同紙は「景気の下振れを回避するため、政府・日銀は、経済最優先の政策運営に万全を期すべきだ」と主張するが、全く同感である。

◆消費税増税再延期を

 問題はその「経済最優先の政策運営」をどう実行するかである。この点に関して、読売は、残念ながら明確でない。回答を海外にも求め総論的である。

 中国経済が減速したため、世界経済のエンジンが見当たらないのは心配として、「日米欧が連携し、構造改革や財政出動などの政策手段を総動員することが欠かせない」、首相には5月の主要国首脳会議で「実効性のある協調政策の取りまとめに、指導力を発揮することが求められる」――という具合である。

 もちろん、企業経営者に対しては新たな成長への先行投資を、政府には政策的な支援で前向きな企業の背中を押すことも大事と指摘して、例えば、法人税実効税率の引き下げペースの加速や企業の新規参入を阻む規制の撤廃など成長戦略の強化を急げ、と指摘してはいる。

 しかし、同紙も指摘する通り、企業は景気の先行き不透明感から今後の業績に不安を感じている現状にあるのであり、政府への注文も中長期的な対策にとどまっている。直近のテーマで言えば、経済対策は必要なのか否か、日銀の金融政策はどうすべきなのか、来年4月に予定している消費再増税は実施すべきか延期すべきなのか、について全く言及がないのである。

 この点で、論評を掲載したもう一つの本紙は、経済対策の必要を認め、現在の金融緩和策の限界を指摘し、政策の整合性から消費再増税の延期を求めた。短観で明らかになった企業心理の冷え込みは、既に今年の春闘の賃上げ率の鈍化に表れ、「アベノミクス」が目指した経済の「好循環形成の原動力がいよいよ失われつつある」ことの懸念からである。

 他紙に今回の短観についての論評がなかったのは、実に残念である。

◆金融修正に円高の壁

 前述の通り、読売、本紙以外では毎日だけが、「異次元緩和3年」の論評の中で、短観の結果を引用した。「大企業・製造業の景況感が、3年前の異次元緩和開始直後の水準とほぼ並ぶところまで悪化した」と。

 毎日は日銀の現在の金融政策について、効果が上がらないばかりか弊害が多いため、「早急に政策の功罪を総点検し、軌道修正を図るべきである」と説く。

 確かに金融政策については、肯く点も少なくないが、短観に示された景気の現状・先行きから、財政政策はどうすべきで消費再増税はどうなのか。読売同様、言及がない。

 また、円高が進みそうな地合いにある中、どう金融政策の修正を進めていくのか容易ではない。朝日(5日付)の「限界認め、軌道修正を」も同様である。

(床井明男)