国際金融経済分析会合に各紙批判の中、建設的な産経、中立的な日経

◆衆院解散勘繰る朝日

 政府が5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で、議長として世界経済に関する議論を主導していく上での参考意見を聞く場として、「国際金融経済分析会合」を実施している。

 会合ではジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授やポール・クルーグマン米プリンストン大名誉教授といったノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者が呼ばれ、世界経済などについて意見交換。政府はこうした会合を計5回程度実施するという。

 さて、この経済分析会合について、各紙の論調は批判的なものが多い。社説で論評したのは朝日、東京、読売、日経、産経の5紙で、日頃、安倍政権に批判的な朝日(17日付)の「増税先送りの布石か」や、東京の「いいとこ取りはやめよ」は分かるにしても、同政権を支持することが多い読売(18日付)や産経(23日付)も朝日同様の「消費増税再延期の地ならしか」(読売)とやや批判的なトーンになっている。日経(19日付)だけが「増税延期の是非慎重に判断を」と中立的で冷静な論調を展開している。

 朝日の批判は、安倍首相が14年11月に翌年秋実施予定だった10%への消費増税の先送りと衆院解散を発表した際、「リーマン・ショックや東日本大震災級の事態が発生しない限り、予定通り引き上げる」と述べ、その後もそうした発言を繰り返してきたが、先月下旬の国会答弁では「世界経済の大幅な収縮が起こっているか、専門的な見地の分析も踏まえ、その時の政治判断で決める」と加えるなど、変えている点である。

 しかも、現状は「リーマン級」にはほど遠く、消費増税は予定通り実施するべきで、14年秋に語った「自らの発言に責任を持ってほしい」と強調。さらには「近づく参院選を意識し、さらには衆院解散の時期を探ることが最優先なのだろうか」との勘繰りぶりである。

 政治的な思惑は別としても、経済はいきものである。確かに朝日が言うように、現状は「リーマン級」ではないにしても、14年4月の消費増税以降の経済情勢は大方の予想以上に増税の悪影響が響き、日本経済は低迷状態を続けている。そこに中国経済の減速や原油価格の下落などが重なり、日本ばかりか世界の経済も不安定な状態に陥っている。

◆景気・税収に言及を

 消費増税が必要なのは、朝日も指摘するように、社会保障費の安定財源を確保するためだが、GDP(国内総生産)成長率がしばしばマイナスに陥るような状況は税収動向にも少なからず影響しよう。

 現在のような状況で消費税を10%に上げた場合、2%増税で約5兆円強の税収増が見込めるとしても、軽減税率の財源分や、景気の低迷により法人税や所得税などが減ることで、全体の税収が必ずしも増えるとは限らないわけである。朝日には増税が景気や税収などに及ぼす悪影響についての議論が全くない。

 その点、日経はそうした事情を踏まえ、「経済状況をギリギリまで見極めてから増税の是非を最終判断してほしい」との指摘は同感である。経済分析会合では、著名な経済学者から、増税を実施すべきでない、との意見がたびたび表明されているが、真摯に受け止めるべきであろう。

 読売はクルーグマン教授がデフレ脱却前での増税の危険性を説いたことに対し、「日本の財政は先進国で最悪の状態にある」と反論し、「増税延期の是非を判断するには景気動向だけでなく、財政再建への影響や代替財源の確保など、多角的な検討が求められよう」と指摘した。

 確かに一理あるが、同紙には朝日と同様、逆に増税した場合の分析、検討の言及がない。全体の税収動向にも無視できない影響があるはずで、残念である。

◆失速は消費増税から

 産経の「『識者』の前に自己検証を」は確かに尤(もっと)もと言え、「金融緩和や財政出動で景気を刺激する間に確固たる成長基盤を築けてきたか。企業収益や雇用環境が改善されているのに、なぜ消費や投資が盛り上がらないのか」「まず政権として自ら政策を総点検することが不可欠である」とはその通りである。

 ただ、現状ではっきりと言えるのは、「アベノミクス」が勢いを失くしたのは、各紙が主張した消費税増税からである。この点を各紙はどう思うのか、聞いてみたい。

(床井明男)