緊急条項改憲にヒトラー独裁を持ち出し印象操作が露骨な「報ステ」
◆改憲阻止の放送姿勢
放送法が求める「政治的公平性」を逸脱するような報道姿勢で何かと物議を醸したテレビ朝日「報道ステーション(報ステ)」キャスターの古舘伊知郎氏だったが、3月末をもっていよいよ降板となる。古舘氏の「報ステ」も残りわずかとなったが、ここへ来て改憲阻止の姿勢を一段と強めている。
同番組は、18日に緊急事態条項をテーマに特集を組んだ。この条項に関しては、民主党の岡田克也代表や社民党の福島瑞穂副党首が、ナチスを持ち出し批判する発言があったが、この特集でも同じ手法の印象操作が見られた。
スタジオの古舘氏は、「もちろん、日本でナチ・ヒトラーのようなことが起きるとは到底考えていない」としつつも、「将来、緊急事態条項を日本で悪用するような想定外の変な人が出てきた場合、どうなんだろうということも考えなければいけない」と特集の意義を強調。続いて、1泊3日で行ったというドイツ・ワイマールでの現地取材の様子を流した。
古舘氏がワイマール憲法が制定された国民劇場やナチ党本部跡などを巡り、当時最も民主的だったはずの同憲法が悪用され、ヒトラーが独裁を確立する過程をリポートする内容だったが、暗にヒトラーと安倍政権を関連付けたと思われる場面が随所に見られた。
かつて、ヒトラーがパレードを見たというホテルのバルコニーに立った古舘氏は、「演説のうまかったヒトラーは、反感を買う言葉を人受けする言葉に代えるのがうまかった。例えば、『独裁』を『決断できる政治』、『戦争の準備』を『平和と安全の確保』といった具合です」と、こぶしを振り上げながら力説。続いて、聴衆の前で演説するヒトラーが「この国を軟弱ではなく、強靱(きょうじん)な国にしたい」「この道以外にない」などと叫ぶ映像を流した。
◆恐怖心を煽る古舘氏
また、ヒトラーが悪用したという同憲法48条の「国家緊急権」について、「大統領が一時的には何でもできちゃう条文だった」と説明。ワイマールの街でソーセージを焼く売店の前を歩きながら、「憲法を作ろうとした人たちが議会制民主主義を実はまだ完全には信用していなかった。このぎっしり詰まったソーセージのように、疑いをぎっしり詰め込んでいた」などと、持論を展開した。
取材中、古舘氏は、終始、眉間にしわを寄せながら深刻な表情で熱弁を振るっていたが、歴史的な事実を客観的に伝えると言うより、むしろ視聴者の恐怖心を煽(あお)るような口調だった。
その中でも極め付きは、ナチスが25万人のユダヤ人や野党関係者を送り込んだという強制収容所を訪れた場面だった。そこでは、人体が解剖された部屋や遺体を焼却した部屋を紹介。その後、「遺体の映像が映りますが、歴史の事実を伝えるためそのまま放送します」と字幕を示した上で、連合軍によって解放された当時の映像に切り替わり、画面は散乱した遺体や山のように積み上げられた遺体、骨と皮だけという痩せこけた収容者たちの姿を生々しく映し出した。
こうした映像を流した理由について、古舘氏は「実際に起きたことをありのままに放送しようという結論に至った」と説明していた。しかし、「日本でナチス・ヒトラーのようなことが到底起こるとは考えていない」という趣旨の発言を4回も繰り返しており、そうであるなら、なぜヒトラー独裁による悲劇をここまで強調する必要があったのか、大いに疑問だ。
◆建設的な議論が必要
さらに番組では、戦後、連合軍がワイマール市民をその収容所に連れて来たと説明。その時の様子を目撃した女性カメラマンの証言として、「(ワイマール市民の)女性は気を失った。男たちは、顔を背けた。あちこちから『知らなかったんだ』と声が上がった。しかし、収容者は怒りをあらわに叫んだ、『いいや、あなたたちは知っていた』」と古舘氏によるナレーションを入れた。
あたかも「緊急事態条項を阻止しなければ、取り返しのつかない事態を招く」と言わんばかりの編集だ。しかし、この緊急事態条項は、すでに多くの国の憲法や法律に明記されている。悪用される危険があると言うなら、それらの国々についてはどう考えるのだろうか。
今月11日で東日本大震災から5年となったが、想定外の事態も含めた多様な危機に日本が今後どう立ち向かうべきか、いたずらに緊急事態条項を危険視する感情を煽るのではなく、建設的な議論が必要だ。
(山崎洋介)