高齢者問題や宗教など社会ネタを特集する東洋経済、エコノミスト

◆社会の変遷読み解く

 経済誌といえば、金融やマクロ経済など国内外の経済情勢や動向を分析・予測することを主なテーマとしているが、近年の誌面の趨勢(すうせい)を見るとそうでもないらしい。糖尿病やうつ病といった病気をテーマにしたものから老人の孤独死など地域・コミュニティーなど社会問題を取り上げることも珍しくなくなっている。経済分野から懸け離れたテーマにも焦点を当て具体的な事例を挙げながら、社会の変遷を読み解いていくというわけだ。もちろん、経済誌であるが故にそこに関わる業界や業態、企業についても論じていくが、総じて経済誌とは思えない切り口も多々見掛ける。逆に、そうした実社会の状況をテーマにしなければ読者を広げることはできないということなのだろう。

 そうした中で、3月19日号の週刊東洋経済は高齢者問題について特集を組んだ。大見出しは「キレる老人」。サブには、「駅内暴力、セクハラ患者、万引き…」「激変する脳と心 高齢者が“暴走”するワケ」「この現実に社会は耐えられるのか」といったフレーズが続く。これらの見出しからは経済というイメージは浮かんでこない。実際にページをめくってみると、老人が引き起こす事件や老人を抱える家族の苦悩が紹介され、今後拡大するであろう高齢化社会の課題を浮き彫りにしている。

◆“老害”目立つと警鐘

 例えば、「争族を生む老いらくの恋」と題された記事には次のような事例を紹介する。「東京都在住の佐藤明美さん(仮名)は、愛知県に住む70代の父に呼び出された。母はすでになくなっておりひとり暮らしだ。久しぶりにあった父の隣には見知らぬ中国人女性が座っている。出稼ぎで日本に来ており、近くにあるスナックで働いているそうだ。『この人と一緒になる』。父は唐突に言った。しかも父は『結婚するなら家を用意してほしい』と迫られ、女性名義で家を購入した。(中略)佐藤さんは父のほれ込みようが心配でならない」というもの。

 決してない話ではないが、これなどは経済記事というよりもむしろ社会ネタに近い。老人の孤独死や認知症老人への介護、高齢者の交通事故、特殊詐欺の被害に遭う老人など、これまでにも老人を扱った社会問題は数多いが、今後“老害”といえるような事件も目立つようになると警鐘を鳴らす。

 一方、週刊エコノミストは3月29日号で宗教問題を取り上げた。特集のテーマは「悩む仏教」となっている。通常、経済誌が宗教がらみの記事を載せる場合は、教団や寺院の教勢・資産ランキングや、葬儀の費用・様式あるいは国際情勢などでキリスト教やイスラム教などの関わりを取り上げることが多いが、今回のエコノミストの特集は少し毛色が異なっている。ましてやエコノミストは他誌の東洋経済やダイヤモンドと異なり、経済問題を主流にしたものが多いのが特徴なだけに今回の特集は興味を抱かせる。

 もっとも同号でのエコノミストのトップ企画は「会社で役に立つ経済学」となっており、そちらは純粋な経済ネタ。従って「悩む仏教」は“サブ”の扱いになっているが、それでもリードには「日本の伝統仏教界が苦難に直面している。信者が減り、寺の維持がままならない地域も珍しくない。活路はどこにあるか」と記す。もはやテーマは経済問題というよりも社会問題、宗教問題である。見出しには、「僧侶の質低下、進む寺離れ、犯罪行為から権力争いまで」とあるから穏やかではない。

◆「布施」は対価か否か

 ところで近年、ネット通販大手のアマゾンを使っての僧侶の派遣が話題だが、同号でもこれを取り上げた。こうした僧侶のネット派遣に仏教界が反発を強めている。ネットを使えば、「法事・法要が税込で3万5000円。葬儀は規模や形態に応じて税込5万5000円から各種」あるという。これに対して全日仏(全国仏教会)は、「お布施は、サービスの対価ではありません。同様に『戒名』『法名』も商品ではありません。(中略)宗教に対する疑問と失望を禁じ得ません。しっかりと対応していきたいと考えます」(同号)としているが、果たして法事で僧侶に渡す「布施」はサービスに対する“対価か否か”が問題になってくるというわけだ。

 そもそも「経済」という言葉は、中国の古典にある「経世済民」に由来するもの。すなわち経済には「世を経(おさ)め、民を救済する」という意味がある。その点からすれば、すべての現象は経済に繋(つな)がっていく。経済誌といえども金融やマクロ経済などに縛られず、広い範囲の問題を取り上げるのがむしろ正論といえる。

(湯朝 肇)