G20で安定に行動求めた保守系、緩和依存に決別求めたリベラル紙
◆現状容認と現状批判
世界的に株価が乱高下を繰り返し金融市場の動揺が続く中、その沈静化を目指した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が、動揺の震源地の一つ、中国の上海で開かれた。議長国はもちろん中国である。
上海G20は成果として、世界経済の回復と金融市場の安定に向け、財政出動を含め全ての政策手段を動員するとの声明をまとめた。為替相場についても、緊密に協議し、各国が輸出競争力を高めるために自国通貨を切り下げる通貨安競争の回避を確認した。
各紙の論評はどうか。社説見出しを記すと、先月28日付で朝日「緩和依存から脱却を」、読売「市場安定へ行動が求められる」、毎日「金融緩和依存に決別を」、日経「世界経済の安定へ果敢に行動を」、29日付で産経「混乱収束へ具体的行動を」、東京「サヨナラ金融資本主義」。
奇(く)しくも、保守系3紙に共通するのは「安定」(読売、日経)や「混乱収束」(産経)への「行動」であり、リベラル系3紙では金融緩和依存からの「脱却」(朝日)や「決別」(毎日)、「サヨナラ」(東京)でほぼ一致した。
保守系紙が現状をまず認め、その対処に重きを置いたのに対し、リベラル紙は現状を批判し、現状に至った過程から政策の転換を求めるというスタンスである。
◆中国に行動を求める
保守系3紙が「行動」で特に求めたのが、中国に対してである。これは当然と言えば当然で、「市場の混乱の震源地」(読売)だったからである。人民銀行の周小川総裁が開会前に異例の記者会見を開いて追加の金融緩和に言及したり(実際にG20終了後の29日に追加緩和を実施)、李克強首相が構造改革を進める方針を表明しても、読売などの指摘の通り、「改革姿勢を強調するだけでは足りない。今後の政策の道筋を市場に明示することが求められ」(読売)るのである。具体的には「過剰設備の解消や国有企業の再編など、痛みを伴う改革をやり抜く行動力が欠かせない」(同)わけである。
日経はさらに、「市場との対話」にしっかりと取り組むことや、構造改革を進める中で「景気が想定以上に減速する場合、機動的に財政出動をするような備えをしておくべきだ」と強調。構造改革は景気にデフレ的に働くため、世界的に低成長リスクが高まる中では要注意で、経済紙として粗漏のない指摘である。
むろん、こうした懸念は中国に対してばかりではない。日経が示す現状認識の通り、世界経済の先行きには不透明感が漂い、牽引(けんいん)役が不在の中で金融市場の動揺が続いている。「日米欧と新興国は財政・金融政策を柔軟に運営して経済を下支えしつつ、潜在成長率を底上げする構造改革を加速させるべきだ」(日経)というわけなのだが、言うは易く行うは難し、である。
これは日本に対しても、当然当てはまると思うのだが、日経は「女性や高齢者の就業率を高めるとともに、思い切った規制改革によって成長基盤を強めるべきだ」「持続可能な社会保障制度をつくる改革からも逃げてはならない」と指摘するばかり。持続的な社会保障制度という点では来春の消費税再増税も当然実施すべきということなのであろうが、再増税でも「景気が想定以上に減速する場合」を考慮しないのであろうか。
◆「緩和」決別は一面的
一方、リベラル系3紙が言うように、「最近の市場の混乱は、主要国の経済政策が中央銀行の金融緩和に依存し過ぎたことによる副作用の面が強い」(毎日)のも確かで、一理あると言える。
しかし、だからといって、「これ以上、中央銀行の金融緩和策に依存しないという決意を行動で表すことこそG20が協調すべきことだ」(毎日)との主張は一面的に過ぎよう。言えるのは、前述の日経の指摘のように、財政・金融政策を自国の経済状況に合うよう「柔軟に」実施するということである。
朝日は「本当に必要な政策は長期的に経済を安定させる構造改革だ」と指摘するが、それをどう実現するかである。同紙は、それは日本の場合、「税と社会保障改革や財政の安定である」とのことだが、そのためには経済の持続的成長が不可欠だが、これまた、どうやって実現していくのか、不明である。
(床井明男)