性差否定するフェミニズム思想の下のLGBT広報に手を貸す産経

◆目を疑う生活面記事

 「産経よ、お前もか」。思わずそう言いたくなった。産経らしからぬ記事が26日付生活面に載ったからだ。タイトルには「LGBT支援団体が啓発冊子 医療や福祉を受けやすく」とある。

 どんな記事かというと、リード文に「レズビアンやゲイ、バイセクシュアルなど性的少数者(LGBT)は、差別や偏見を恐れ、医療や福祉サービスを受ける機会を逃していることが少なくない」とあり、LGBTの生きやすい社会を実現しようと支援団体が啓発冊子を作成、無料配布を始めたとしている。

 女性記者の署名入り記事で、東京都渋谷区の同性パートナーシップ条例を祝する人々の姿と冊子をカラー写真で掲載している。支援団体は「クォーク」という名称で、記事はその団体の理事の話を交えて冊子の中身を延々と書く。末尾に同団体のホームページのアドレスを記しており、どう読んでも宣伝記事だ。

 そのどこが産経らしからぬか。それはクォークのホームページを開けば一目瞭然だ。同団体は「フェミニズムの視点を重視しながら、セクシュアリティを自由に表現できる社会の実現」を目指しているからだ。

 フェミニズムとは「マルクス主義の亜流で、家庭内の夫婦関係、一般の男女間の関係を力関係、上下関係と捉えて、それをひっくり返そうという思想」(八木秀次氏『反人権宣言』)にほかならない。

◆フェミニズム批判は

 このフェミニズムの延長上に、男女の区別を否定し専業主婦を敵視するジェンダーフリーがある。その影響を強く受けた「男女共同参画社会」を批判してきたのが従来の産経だったはずだ。それを何の抵抗感もなく生活面に丸写しのように「フェミニズムの視点」を載せる。いつから産経は宗旨替えしたのか、首を傾(かし)げる記事である。

 慰安婦問題の国際的な「歴史戦」(産経の表現)の舞台となっている国連の女子差別撤廃委員会もフェミニズムの影響下にある。日本政府追及の“御旗”となっている「クマラスワミ報告」はその最たるものとされている。

 周知のように「クマラスワミ報告」は朝鮮半島で女性を強制連行したとする吉田清治氏の虚偽証言を朝日報道から引用し、慰安婦を「性奴隷」と定義して日本政府の法的責任や元慰安婦への補償などを勧告している。

 ちなみに「吉田証言」は韓国の「済州新聞」の許栄善という女性記者が徹底的に調べ上げて虚偽を暴いた(同紙1989年8月14日付)。こうした事実関係を指摘し続けてきたのも産経だった。

 また朝日が14年に虚偽報道と認めたことを受け、政府は14年10月、ニューヨークでクマラスワミ氏に面会し、「吉田証言」が引用された報告書の一部撤回を申し入れたが、同氏は拒否した。これも産経は14年10月17日付で詳しく報じている。

 このように産経はフェミニズムの非を鳴らし続けてきたが、生活面はそれこそ後ろから鉄砲で撃つかのようにフェミニズム擁護記事を載せた。

◆渋谷条例報道と矛盾

 この記事の怪しさは渋谷区の条例を論じた中で、偏見や差別によって医療や福祉サービスを受けられないと記したところにも現れている。だが、産経は昨年、渋谷区内の不動産会社や病院を取材し、「入居・面会『断ったことはない』」と差別・偏見論を真っ向から否定していた(同4月17日付「渋谷の変 上」)。

 LGBT支援派が言うような「差別」はどこにもなかった。人権擁護委員会に訴えがあったという話も聞かない。それなのに女性記者は何の疑問も抱かず、LGBT支援団体の冊子紹介記事を書き、それをデスクもとがめず、紙面化させた。誰も異議を唱えなかったのか、不可解だ。

 果たして女性記者は差別や偏見をなくそうとの“善意”から支援団体の宣伝記事を書いたのか、それともフェミニズム信奉者なのか、どっちだろうか。

 産経は最近、東京本社の女性記者を中心に「女子特区」という企画記事を不定期で載せている。所属部局を超え、さまざまなテーマを追い掛けるという。前記記者はそのメンバーでないが、フェミニズムに流され、愛読者から「産経よ、お前もか」と嘆かれないよう願いたい。

(増 記代司)