オバマ大統領の中東政策の失敗を指摘しリビア介入を訴えるWSJ紙
◆急速なIS勢力拡大
米軍は2月19日にリビア北部サブラタの過激派組織「イスラム国」(IS)の訓練施設を爆撃した。この爆撃で約40人が死亡したとみられている。
オバマ米大統領は、ISの浸透が指摘されるリビアに対する軍事介入に慎重な姿勢を示してきたが、今回の空爆はリビアで拡大するISの勢力に一定の危機感を持っていることの表れとみることはできる。だが、これでISの進撃を止めることはできないのは明らか。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版は2月25日付の社説で、「オバマ氏が北アフリカのイスラム国におざなりな攻撃を命じた」と懐疑的だ。
ISの勢力は昨年の国連の発表では2000~3000人とみられていた。だが、その後急増し、今では5000~6500人とみられている。
ISはもともと「イラクとシリアのイスラム国」(ISIS)と名乗っていた通り、シリアとイラクを拠点に勢力を強めてきた。2014年6月に「カリフ制国家」の樹立を宣言し世界を驚かせた。イラク北部の要衝モスルを支配下に置き、一時は支配地が首都バグダッドに迫るなど、破竹の勢いだったが、その後反撃に遭い、イラクでの支配地は徐々に縮小している。
シリアでは、アサド政権、クルド人勢力、外国軍、シーア派民兵組織などと戦闘を続けているものの、勢力の拡大には至っていない。経済制裁を受け、資金源である油井が空爆で破壊されるなど、資金力の低下も指摘されている。
◆権力空白に入り込む
そこで、新たな拠点として目を付けたのがリビアだ。イラクがシーア派の専横に対するスンニ派の反発で混乱、シリアは内戦で権力に空白が生まれた。ISはうまくそこに入り込んだ。リビアもまさに政府が分裂し、国内の統制がされていない状態にあり、ISにとってはうってつけの場所だ。
英紙ガーディアン電子版は社説で「米国とその同盟国は、リビアでのIS勢力拡大への懸念をますます強めている」と指摘したが、どう対応するのかは決まっていないのが現状だ。米当局者は、先月の空爆は新たな国際的な空爆の開始とはならないと指摘しているが、同紙は「時間の問題だ」と、リビアをISの「跳躍台」としないためには本格的な軍事作戦の開始は不可避との見方を示した。すでにフランスなどで大規模なテロが発生しており、欧州に近いリビアがISのテロの起点となることは何としても阻止しなければならないからだ。
リビアは11年のカダフィ政権崩壊後、内戦状態に陥り、現在は世俗派とイスラム勢力が東西に分かれて対峙(たいじ)、正統な政府は存在しない。リビアからの正式な要請がなければ本格的な介入はできないという主張が欧米から出ているが、それではISの思うつぼだ。
その上、今のような混乱を招いたのは欧米の責任でもある。ガーディアン紙は「リビアが分裂したのはほとんどが、11年以降の国際社会からの無関心と外交面でのフォローの欠如によるもの」であり、欧米は「目を逸(そ)らすべきでない」と主張している。
◆米主導の介入求める
これはイラクとアフガニスタンを振り返れば分かることだ。オバマ大統領は両国からの米軍の撤退を実行したが、その後、治安は悪化、新たに米軍を派遣する事態となっている。WSJは、「オバマ大統領は重要な教訓を学んでいる。戦争では、早計に勝利宣言をし、撤退してはならない」とイラクとアフガンでのオバマ大統領の対応を批判している。
現状を見る限り、イラクとシリアがそうであったように、ISがリビアを新たな拠点にしようとしていることは明白だ。同紙は「リビアのISを壊滅させるかどうかは、米国主導の空爆と地上戦が行われるかどうかにかかっている」と軍事介入の強化を求めている。
WSJは「オバマ大統領は就任後、米国のトラウマである中東から撤退できるという幻想を抱いてきたが、結果的に、トラウマはさらに悪化した」とオバマ氏の中東政策の失敗を指摘、オバマ大統領がリビアへの介入に消極的なのは「また失敗したことを認めたくないから」と厳しく非難している。
(本田隆文)