原油価格低下が「世界恐慌のリスクはらむ」と指摘するエコノミスト
◆資源国の財政が逼迫
原油価格の下落が止まらない。街中のガソリンスタンドの価格表を見るとガソリンが1㍑=97円と100円を切り、灯油も1㍑=39.8円と40円割れの日が続く。2年前はガソリンが1㍑=160円台、灯油に至っては1㍑=100円近くなっており、現在の1・5倍から2倍以上の値を付けていたことを考えると、ずいぶん下がったものだと改めて原油価格の下落ぶりに驚嘆させられる。
原油価格の下落は消費者にとってみればありがたいが、それで済ますことができないのが「経済」の世界。原油産油国を始めとする資源供給国は価格下落の影響をもろに受け、国の財政が逼迫(ひっぱく)する状況に陥っている。ちなみに、日本は年初、6日間連続で株価が下がり続け、日経平均株価が3000円下落したが、その要因は中国経済の減速と原油価格の下落であった。果たして、原油安はいつまで続くのか、あるいは原油安は産油国や新興国、世界経済にどのような影響を及ぼすのか。
週刊エコノミストは1月26日号で原油価格下落のリスクを細かく分析している。「地図でわかった原油恐慌」と見出しの付いた特集では、OPEC(石油輸出国機構)の盟主サウジアラビアの原油政策と財政状況、産油国カナダ・米国の思惑、さらに原油供給国のロシア、鉱物資源の供給国ブラジルについても言及、原油リスクが世界経済に与える影響を説明している。
◆窮地に立つブラジル
そもそも原油価格は米国のシェールオイル・ガスの開発・生産の進展、世界経済の減速によって2014年秋以降から下落基調に転じていた。そうした中で同年11月のOPEC総会ではサウジアラビアの思惑も働いて減産を打ち出さなかったことに原油価格が急落。それまで1バレル=100㌦前後で推移していた原油価格は一気に60㌦台に落ち込んだ。15年に入ってもその流れは変わらず、中国経済の減速が明らかになることによってさらに原油価格は下落。7月に欧米主要6カ国とイランが核問題で合意し、イランへの経済制裁が解除されることによりイラン産の石油輸出が増えるとの見通しも働き、8月に起こった世界同時株安で原油価格は一時1バレル=40㌦台へ突入する。ここまでくればOPECも減産で対応するのが“定石”と思いきや、12月上旬にウイーンで開かれた総会では加盟国の足並みの乱れが止まらず、減産はおろか原油の生産目標の設定さえも見送られてしまった。さらに米国では12月18日、議会が40年ぶりとなる米国産原油の輸出解禁を決定。これらの要因も加味されて原油価格はさらに下落。今年1月12日には一時1バレル=20㌦台を付けるなど考えられない展開となっている。
こうした原油安で窮地に立っているのが中東諸国、ブラジルやロシアなどの産油国だ。中でもブラジルは深刻だ。財政赤字は15年11月までの1年間でGDP比9・5%に達している。そうした中での原油安。エコノミストは同国の表面に出ない“隠れ借金”を指摘する。「(国が51%の株式を保有する石油会社の)ペトロブラスの負債は、15年9月末時点で1275億㌦(約15・3兆円)、現在の為替レートで換算するとGDPの約1割に相当する。17年末までに283億㌦(約3・4兆円)も償還しなくてはならない。(中略)経営が破綻すれば完全国有化するほかなく、事実上の政府保証がついた債務といえよう」(森川央・国際通貨研究所上席研究員)と述べ原油安による同国の財政リスクを説明している。
◆世界レベルのリスク
もっとも、原油安で経営リスクが高まっているのはペトロブラスだけではない。米国の石油・ガス生産会社チェサピーク・エナジー、スイスのトランスオーシャン、ベネズエラのペテロレオス・デ・ベネズエラ社、さらに原油安に連動して資源価格が下落しているため、鉱物資源を開発・生産する企業にも影響が出る。原油安が続けば、米国の原油増産の一翼を担っている米国の中小シェールオイル・ガス企業にも影響が出るのは確実。今や原油安は世界的レベルでの経済リスクとなっている。
「こうした企業の経営が行き詰ることになれば、大手金融機関を含めた『システミック・リスク』へ連鎖する恐れもある。世界的大企業の破たんは16年の最大リスクとなろう」と藤戸則弘・三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部長は同誌で警鐘を鳴らす。同誌は「原油安は世界恐慌の引き金になりかねないリスクをはらんでいる」と結論付けるが、確かに今年は原油の動向に目が離せない一年になろう。
(湯朝 肇)