「同性婚」教える中学を「最先端」と褒めちぎったNHK「おはよう日本」

◆多様な性の複雑怪奇

 この欄で筆者は最近、いわゆる「LGBT」(性的マイノリティ)をもてはやす新聞・テレビを批判することが多くなっている。そこで、批判してばかりいてはいけないと、当事者や支援者団体が企画する勉強会に時々参加することにしているが、参加する度に複雑な知的作業を強いられて疲労困憊する。

 先日も都内で行われた講演会に足を運び、LGBTやら性の多様性やらについて、学生時代に戻った気分で勉強したが、複雑怪奇な「セクシャリティ」の定義に、50人あまり集まった中でまともに理解した人はどれだけいるのか、と疑いを深めて帰宅した。

 たとえば、その講演会では、四つの指標を使ってセクシャリティを説明した。「身体の性」「心の性」「社会的性」「性的指向」である。これらを詳しく説明する紙幅はないが、それぞれの指標が「男」あるいは「女」にどれだけ寄っているかは個人によってさまざまだから、四つの組み合わせで決まるセクシャリティは「人類の数だけある」というのだ。

 そういえば、大阪市淀川区などが教員向けに作成した冊子には、「性のあり方(セクシャリティ)は十人十色」とあったのを思い出した。人それぞれ違うというのなら「個性」でいいではないかと思うのだが、セクシャリティだという。また、指標もテキストによっては三つだけ、さらには社会的性のかわりに「性表現」を使う場合もあり、これまた分かりにくい。そのうち、五つに増えるかもしれない。

 最近は、LGBTはレズやゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーだけではないという意味で「LGBTs」とし、また「LGBTQ」にする場合もある。「Q」を付けるのは、自分の性別がよく分からないという意味での「クエスチョン」と、英語で「変人」という意味の「クイア」から来ているのだそうだ。

 ジェンダー論の影響なのか、男とか女とかは単純に分けられないというのが彼らの主張だが、セクシャリティは人それぞれだとするなら、性的マイノリティという枠組みを設定する意義はどこにあるのか。

◆生徒が大人に教える

 そんな疑問を持っていたら、この複雑で理解しがたい〝多様な性〟という考え方を、授業で教えている中学校が愛媛県西条市にあり、しかも全国から注目を集めていると、NHK朝のニュース番組「おはよう日本」(今月20日放送)が褒めちぎったのだから驚いた。

 番組で放送したのは2年生の授業で、米国で「同性婚」が合法化されたことを学んでいた。そればかりか、生徒たちは教室で身につけた「正しい知識」を、今度は地域の大人に教えているという。その講義を受けた住民が、正直にこんな感想を漏らしていた。

 「いろいろ頭文字がいっぱいあって、ちょっと僕たちには分からないですね」。LGBTという言葉を聞いたことがない人もいるのだから、当然だろう。

 これに対して、女子中学生の一人は、「男は男、女は女という世界で生きてきた方にとっては、自分らと違った情報を認めることはやはり難しいと思う」と、上から目線で言うのだから、知識だけでなく使命感まで植え付けられたようだ。

◆先入観と決め付ける

 1月10日付のこの欄で「NHKの性的少数者応援はますます過熱している」と書いたが、番組ではそれを裏付ける発言がポンポン飛び出した。この中学校の取り組みを「最先端」と称賛したアナウンサーは「むしろ従来の価値観からなかなか抜け出せないのは大人の側かもしれませんよね」。

 リポートした女性記者も「子供たちのほうが、先入観がない分、素直に受け止めているのだな、という印象を受けました。男女はこうあるべきという従来の価値観に染まる前に、学校教育の中で正しい知識を教えていくことの重要性を改めて感じました」と、恐ろしいことを言う。

 従来の価値観は偏見で、多様な性の教育は先進的と決め付ける人たちには、いくら知識を植え付けられても、その知識を受け入れられずに悩んでいる生徒が存在するかもしれないと思ってもみないのだろう。NHKの全国放送で流れたことで、この中学の取り組みに拍車がかかるだろうが、伝統的な価値観を捨てない生徒の居場所がなくならなければいいが、と思う。

(森田清策)